生産性向上のためにも、人手不足に対応するためにも、もはや中小企業のデジタル化は待ったなしの状況です。『中小企業のための会社を正しくデジタル化する方法』(小社刊)の著者が、資金も人材も限られる中小企業がデジタル化に成功する方法を解説します。

※本連載は月刊「企業実務」に連載されている「絶対に失敗しない! デジタル化の進め方」を転載したものです

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業務ソフトウェアを”衝動買い”するリスク

業務を改善するためにソフトウェアを導入しようとするとき、たいていの場合、まずは「何かよいソフトはないか」と、あちこちのウェブサイトを探すでしょう。すると、同じような機能を謳っている膨大な数のソフトウェア、つまり「デジタル化商品」をたくさん見つけることになります。

しかもその価格たるや、数千円のダウンロード販売のものから、「価格は見積り次第」といった大規模なものまで、まさにピンキリです。近年はブラウザー上でソフトウェアを使えるクラウドサービスが増えていることもあり、月数百円程度の月額課金で使えるものもあります。

「月数百円なら、まずは試してみよう」と考えるのも当然で、結果的に、さまざまなクラウドサービスをとっかえひっかえ試すことになります。こういった、服の試着を繰り返すような「ウィンドウショッピング型」でソフトウェアを選んでいると、ついつい価格、デザインのよさ、使い勝手などで「これにしよう」と判断しがちです。

しかし、これではほぼ衝動買いに近く、あとになって次のような問題を抱えることになります。

  1. 機能不足
  2. 他のソフトウェアとのデータの不整合
  3. 業務手順との不整合 等…

1については、そもそも衝動買いのような買い方なので、容易に想像できると思いますが、2と3は、実際に経験してみないとわかりにくい問題です。

まず2は、複数の業務ソフトウェアを導入した際に顕在化します。一連の業務をひとつのソフトウェアだけでこなせる統合ソフトウェアであればよいのですが、販売管理と会計管理といったように「業務の川上・川下」をそれぞれ単独のソフトウェアで分担している場合、高い確率でこの問題が発生します。

たとえば、販売管理のソフトウェアでつくった売掛データを会計管理で使おうとすると、これらの2つのソフトの間で、取引先情報や商品情報が一致しておらず、担当者が変換作業を強いられる、といった具合です。

一方、3については、極めて単純化して説明すると、担当者が「A→B→C」の順番で業務を処理するのに対し、ソフトウェアが入力を求める順番は「B→A→C」である、といった問題です。

それでも、B、A、Cの入力データが同じ画面上で作成・入力できるものであれば問題も少ないのですが、それぞれのデータをつくるのに人の手作業が必要な場合、そのままではソフトウェアを運用できません。業務手順や、ときには業務内容の変更を迫られることすらあり、相当大変な業務改革が必要となります。

「せっかく導入したソフトウェアが使いものにならなかった」といった最悪の事態も起こり得ます。

欲しい機能を「説明できる」ことが必須

このような“衝動買いリスク”を避ける方法はひとつしかありません。それは、「必要としているソフトウェアの機能はどのようなものなのか、具体的に説明できるようにする」ことです。

たとえば、在庫管理機能を求めているのであれば、「製品Aの過去の出庫実績数を平均して、今後の出庫予測と在庫数の過不足を日別の表に出力する機能」といった具合にです。

同じ在庫管理ソフトウェアであっても、このような機能を持っているものもあれば、持っていないものもあります。あるいは機能は持っていても、出力される表の書式が想定と異なり、そのままでは業務に使えないこともあります。業務遂行上、どうしてもその表の形式であることが必要ならば、表の形式についても説明できなくてはなりません。

もちろん、必要な機能はひとつではないでしょう。全機能を説明するのが大変であれば、肝となる部分だけでも、必要とする機能を説明できるように準備します。そして、ソフトウェアを販売しているITベンダーにそれらを提示して、最適なソフトウェアを提案してもらうようにするのです。

こうすることによって初めて、無用なウィンドウショッピングを避け、機能不足のソフトウェアを購入してしまうリスクを防ぐことができます。

避けては通れない「業務の可視化」作業

では、どのようにして必要な機能を明確化し、説明できるようにするのでしょうか? 

これにはさまざまな方法がありますが、いずれにせよ「業務の可視化」を避けることはできません。業務の可視化とは、単に業務を順番に箇条書きにした程度ではなく、業務に関係する全職場・担当者とその業務を時系列で明確化することです。

下の図はその一例です。ある企業の受注処理業務を可視化したもので、これを「業務プロセス図」と呼びます。横軸にはその業務に関わる社内の部門を、縦軸には時系列で各部門における業務を記載しています。

この図をつくることによって、職場や担当者ごとに仕事のインプットとアウトプット、およびその前後関係がはっきりします。また、どこでどのような課題や負担が発生するのかが明確になり、それらを分析することで、課題の発生原因とその対策案も検討できます。

これによって、先に挙げた3(業務手順との不整合等)のようなリスクを避けることができるのです。また、業務別に複数のソフトウェアを導入する場合、その前後関係がはっきりしますので、2(他のソフトウェアとのデータの不整合)のリスクもあらかじめ発見できます。

こうして業務の可視化をしたうえで、自社の業務をデジタル化する際に、「何を解決したいのか?」「そのためにはどのような機能が必要なのか?」「その優先順位はどのようなものなのか?」を説明できるようにします。

ITベンダーにそれを示し、適切なデジタル化商品を提案してもらうように依頼することで、導入の失敗を防止することができるわけです。これが、デジタル化商品特有の買い方と言えるものです。


著者profile

鈴木純二(すずき・じゅんじ)

ベルケンシステムズ代表取締役。IT導入コンサルタント。大手OA機器メーカーでハードウェアエンジニアを経験後、情報システム部、ネット経営戦略責任者等を歴任。独立後、製造業、サービス関係の企業のIT導入を支援する事業を展開する。