総務部門や経営企画といったいわゆるバックオフィスを担当する部署は、会社の屋台骨を支える重要な存在ですが、その一方で、営業部などのフロントオフィス勢から「現場のビジネスをわかっていない」「コストばかりかかっている」などの不満を持たれがちな部署でもあります。それはなぜなのか、そしてバックオフィスのあるべき姿とは──。『バックオフィス業務のすべてがわかる本』にその答えがありました。
※本稿は植西祐介『バックオフィス業務のすべてがわかる本』の「まえがき」を再編集したものです。

バックオフィスが軽視される理由

一般的にバックオフィスは会社の中核となる部署ではないことのほうが多いでしょう(経理や人事といった管理系部署が中核となり動かしているような会社ですと、それはそれで事業活動が進んでいるか不安にもなります)。私のこれまで出会ってきた数多くの会社での実体験で申し上げますと、バックオフィスは他部署から以下のような不満を抱かれることが多いようです。

「誰でもできる事務仕事で、プレッシャーがなくてラクそう」
「どんな仕事をしているか見えてこないし、わからない」
「現場のビジネスのことをわかっていない」
「堅いことや保守的なことばかり言ってくる」
「売上を生み出さず、コストばかりかかっている」

わかりやすく伝えるために、少し強調した極端な物言いも含まれていますが、これがバックオフィスがよく置かれている状況です。

バックオフィスが軽視される理由は明確です。「本来持つべき機能を果たしていない、ないしは、果たしていると見られていない」からです。

バックオフィスの真のミッションとは

その解決のためのキーワードは「経営との接続」です。実はバックオフィスと一言でいってもその定義は広く、上を見ればキリがありません。バックオフィスの最高位はCFO(最高財務責任者)やCHRO(最高人事責任者)などであり、それらの職務の必要性は年々高まっています。最近ではCLO(最高法務責任者)やCAO(最高総務責任者)を設置している企業も増えています。

こういったバックオフィスのCXOの人たちも、もともとはプレイヤーとしてバックオフィス業務を行っていたはずです。プレイヤーとの違いは何かというと、それこそ「経営への関与」になります。

例えばCFOならば財務・ファイナンス視点から、M&Aなどの戦略手法も用いて、全社目線で資金リソースの配分を最適化するのがミッションです。CHROであれば、最強のパフォーマンスを生み出す組織集団をつくるために、制度設計・採用・カルチャーづくりを推進します。戦略や経営に紐づくからこそ高い価値が生まれるのです。

バックオフィス業務は実は替えが効きづらい業務です。創業したての小さな会社は、社長自身やその近親者がフロント業務を兼務しながら、経理や採用といった各種バックオフィス業務も行っているケースがほとんどです。この業務を気軽に誰かに任せてしまうと、たちまち重要な数値が見えなくなったり組織づくりに支障が出たりしかねません。バックオフィス業務を任せる人選は、元来極めて重要な意思決定を伴うものなのです。

つまり、本来のバックオフィス業務は、経営者が大事にしている「会社の経営管理という心血の一部をわたす行為」であり、その責務は重く、寄せられる期待も高いものなのです。であれば、経営者の意図を理解して同じ視点で業務を回すこと=「経営者との接続」がバックオフィス業務の本質であり真のミッションであるべきなのです。これこそが本書で展開する大きなテーマでもあります。

本書の特徴・伝えたいこと

本書は、経理・人事・法務・総務といった「バックオフィス」をテーマに、その機能と業務内容を伝える本となります。バックオフィス業務に直接従事する人や、バックオフィス組織をつくり上げようとする人を主な対象としており、お伝えしたい内容・特徴は以下の通りです。

・新しくバックオフィスや管理部門に配属された人が、やるべき業務を理解できるようにする
・少人数ないしは1人バックオフィスで、業務を広く担当する際に、漏れのない視点で、やるべき仕事とその全体像を伝える
・各領域での専門知識だけではなく、「バックオフィス全体」から見える視点や提供価値を伝える
・バックオフィスに携わる方々にとっての、経験や成長のきっかけを伝える
・経営者や他部署の人たちのバックオフィスに対する理解を深め、組織づくりや関係性構築の一助となる情報を提供する

本書は、バックオフィスの初級者から中級者に手に取ってもらいたい本となりますので、内容はバックオフィスの基本業務を網羅するように心がけています。会社によっては、専門家やアウトソース先にバックオフィス業務を一部依頼している会社もありますが、できる限り社内のバックオフィスで業務解決ができるよう、基本理解と業務ポイントの全体を記載しています。

本書のもう1つの特徴としては、バックオフィスという仕事を、個別領域ではなく全体視点でその機能を伝えている点です。経理や人事、法務といった各バックオフィス単体領域での知識や情報については、個別に数多くの専門書が刊行されています。そのため本書では、個別領域の解説だけではなく、管理部門やバックオフィス部門全体に通ずる共通項を見つけ出し、そこで働く人すべてに共通で伝えたいメッセージを発信するよう心がけています。

著者自身のバックオフィス業務の経験

ここで私の自己紹介をさせてください。公認会計士・税理士・社会保険労務士の資格を持ち、コンダクトグループの代表を務めている植西祐介と申します。

コンダクトグループは、「経営コンサルティング会社」「会計事務所」「社会保険労務士事務所」からなる会社群で、バックオフィス領域のワンストップサービスをグループ全体で提供しています。スタートアップから大企業、伝統的事業から最先端事業まで、さまざまな企業のバックオフィス業務に対して専門サポートを展開しています。

代表である私自身は、新卒で上場企業の化学メーカーの管理部門として、経営企画や経理の経験を積んできました。いわゆる伝統的な日本の大企業の管理実務を、本社と工場現場の前線で学んできた人間です。

メーカー工場勤務時代に公認会計士試験に運よく合格したこともあり、その後は大手監査法人で会計監査・内部統制監査を経験しました。

さらに公認会計士として監査経験をした後は、もともとは経営企画業務から私のキャリアが始まったこともあったので、監査法人グループ内の総合コンサルティング会社や外資系戦略コンサルティングファームといった、経営コンサルティングの世界へと飛び込みました。

直近では、スタートアップのCFO・コーポレート室長として、会社が社員数一桁のゼロイチ状態から100人以上の規模まで急拡大するフェーズでの、広範にわたるバックオフィス業務の実務とマネジメントの両面を経験しています。

・大企業、中小企業、スタートアップのそれぞれの規模の会社で勤務した実態
・経営企画・会計・人事・法務・総務といった各領域での活動
・社内実務者と社外士業専門家、コンサルタントとしての複合的な視点

私の経験をまとめるとこのようになります。バックオフィス領域についての、ハイブリッドかつ広い範囲での実経験をベースにした課題解決力を強みに、現在は同じ考えを持つ同志たちが集まって、コンダクトグループという専門ファームが形づくられています。


バックオフィスという存在の価値を高めていくというのは、現在私が経営する会社のミッションであり、私自身にとっての生涯のライフワークにもなっています。

バックオフィスが持つ力やポテンシャルを強く感じ、この領域でキャリアを積み上げることの楽しさや人間的成長といった側面を実際に享受してきた人間として、バックオフィス業務の魅力を、この本を手に取っていただく皆様に少しでも伝えることができましたら、これ以上ない幸いです。

著者プロフィール

植西祐介

公認会計士、税理士、社会保険労務士。コンダクトグループ代表/株式会社コンダクト代表取締役。1985年埼玉県生まれ。一橋大学商学部卒業後、2007年4月から住友化学株式会社にて経営企画・経理・管理業務を担当。2012月2月から新日本有限責任監査法人にて製造業/飲食/商社等の複数業界の会計監査・内部統制監査業務を経験。2016年6月からボストン・コンサルティング・グループでM&A/中長期経営計画立案/オペレーション改善等の経営コンサルティング業務に従事。2018年2月からは株式会社プレースホルダ(現 株式会社リトプラ)にて、取締役(CFO)に就任。現在は士業としての活動のほか、自身の経験をもとに、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業等へのバックオフィス支援業務を積極的に行っている。YouTubeチャンネル「バックオフィスの道」も好評配信中。