よく知っているようで知らない「税金」。給料からごっそり天引きされている金額も、細かく見れば「所得税、住民税、その他税ではないもの(社会保険料など)」と細かく分かれていますし、自動車を持っている人なら「自動車税と自動車重量税って、似たようなものがあるな」と思ったこともあるかもしれません。
そうした「税に関する基本的な知識」を解説すべく、このたび『教養としての「税金」』(木山泰嗣・著)が発刊されました。本記事では同書と、同じ木山氏による既刊『教養としての「税法」』『教養としての「所得税法」』の2冊を絡めた計3冊を用いて法的側面から税金を学ぶ方法を、前後編に分けて解説します。
教養として使える「税と法」の学び方
今回の『教養としての税金』は、3冊のなかで最も「税金全体」の俯瞰ができるようにまとめられた本で、他の2冊と異なり「法」の部分(法学の専門性)が、薄められています。
法といいましたが、わたしは現在法学部の教授で、もともとは法の専門家として弁護士の仕事をしていました。税金はすべて「法律」のルールに根拠があります。この観点からみると、専門的に税金を学びたい人は、「法学」として「税法」を学ぶことが避けられません。
でも、ほとんどの人は日常生活でそこまでの専門性を必要としておらず、あくまで「教養レベルで税金のことが知りたい」というニーズのほうが高いでしょう。この意味で、いまからこのシリーズを読む人であれば、まず本書から読んでいただくのが最適と考えます。
本書を読んでさらに興味をもたれた人は、今度は税金を「法学」として学べる『教養としての「税法」入門』(シリーズ第1弾。通称「税法入門」)を読むのがよいと思います。タイトルは本書と似ていますが、書いてある内容はじつはかなり違います。
逆に、既に2017年刊行の「税法入門」を読まれた人にとっては、新刊である本書が“「税法入門」を基礎にしたうえで「税金全体」を通覧できる”強力な1冊になると思います。
このように考えると、シリーズ第2弾の『教養としての「所得税法」入門』(通称「所得税法入門」)は、3番目に読むのがよいと思います。というより、「所得税法入門」は「1冊のビジネス書なのに、所得税法をかなり深く学べるもの」になっています。
この点で、「所得税法入門」は、かつてわたしが講義をしていた法科大学院(ロースクール)の「租税法」(そこで習う7~8割は所得税法)や、現在でも法学部(大学)で授業を担当している「税法」(所得税法を8割ほどのバランスで教えています。開講講座の正式名称は「税法A」で、内容は「税法入門」)の講義内容の予習・復習に使える内容になっており、シリーズ3冊のなかで最も専門性が高いです。
とはいえ、一般向けに書きましたので、その歴史も含めて所得税法を基本から深く知りたい人には、面白い1冊になっていると思います。所得税額の計算を定めたのが所得税法ですが、その一つひとつに条文(所得税法の規定)の根拠があり、その規定の文言の解釈をした判例をひも解くことも必要になります。
これらを、「所得概念」という重要な基本理論を軸として、初学者にも理解できるよう具体的に解説をしています。そのため、大学の税法の講義を受けるかのように読める1冊だと思います。
順番が前後しましたが、第1弾(税法入門)も裁判所の判例や各税法の規定なども参照していますが、こちらの本は法律書のような難解さはないと思います。ビジネス書(読み物)として、専門知識のない人でも、ふつうに「法学としての税法」に入門できる1冊になっているはずです。
「税法入門」は7年前の刊行ですが、いまでも内容はまったく色あせていません。それは、税法に入門するためにおさえておくべき基本的な理論(租税法律主義など)と、基本的な制度(申告納税制度、源泉徴収制度、税務調査、青色申告、税務争訟など)を中心に、初歩から理解できるテイストに仕上げているからです。
教養としての「税」シリーズ3冊の狙い
当時、この本がビジネス書として売れたことは著者として意外でもあったのですが、注釈はきちんとつけながらも、読み物として一般読者の方の知的好奇心に応えられる1冊をつくりたいと意気込んで著したものでした。
その後に、他の専門分野の方が著者となられて1冊の個人の書籍だったはずのものが、『教養シリーズ』となり、税法以外の分野のラインナップが刊行されることになったことも含め(法分野では、「労働法」「会社法」「行政法」などが刊行されていますね)、嬉しく思っています。
さて、新刊である本書ですが、「総論」パートと「各論」パ―トに分け、全体を構成しました。各論部分は性質ごとに「3分類法」(所得、資産、消費)で分けた税金を、章ごとに読むことができます。「各論」は税収ランキングなどもつけて情報量は多めにしつつも、熟読しなくても眺められる形式をとりましたので、パラパラめくって眺めていただくだけでもよいと思います。
税金を深く読めるようになるための基本的な視点を、その方法論も含め、総論ではできる限りわかりやすくまとめました。学びたいけれど専門書を開くと、挫折してしまう。そういう人をサポートする本にしたかったので、著者オリジナルの言葉(専門用語をさらにかみくだいた言葉)や見方もでてきますが、「次は専門書も読めるようになりたい」という人のために軽めにですが専門用語も付記していますので、安心して読んでいただけると思います。
税金の種類は、国税、地方税をあわせると思った以上に多くあると思いますが、これらを(種類を問わず)読み解く力をつけるためには、共通した考え方(方法論)があります。本書で「税金の読み解き方」をマスターできれば、税制改正や政策論などを記事などで目にしても、臆せず読んで「なるほどね」と思えるようになる基礎力(教養)と、「税金」を気軽に議論できる応用力(これも教養の1つといえるかもしれません)が、身に着くのではないかと思います。