よく知っているようで知らない「税金」。給料からごっそり天引きされている金額も、細かく見れば「所得税、住民税、その他税ではないもの(社会保険料など)」と細かく分かれていますし、自動車を持っている人なら「自動車税と自動車重量税って、似たようなものがあるな」と思ったこともあるかもしれません。

そうした「税に関する基本的な知識」を解説すべく、このたび『教養としての「税金」』(木山泰嗣・著)が発刊されました。本記事では同書と、同じ木山氏による既刊『教養としての「税法」』『教養としての「所得税法」』の2冊を絡めた計3冊を用いて法的側面から税金を学ぶ方法を、前後編に分けて解説します。

法律家からみた「税金を学ぶ」ということ

税金というと、「払わなければいけないもの」という感覚が強いかもしれません。増税と聞けば少し「いやな感じ」がするかもしれませんし、減税と聞けば何だか「嬉しい気分」になる。そういった感覚で済ましてしまうのが、「払わなければいけないもの」としての税金なのかもしれません。

そんな税金ですが、種類もさまざまあるので、勉強家の人や知識欲が旺盛な人には、あるとき「よし、税金をマスターしてみよう!」という意欲にかられたことが、「過去に1度くらいはあるよ」という人が、もしかしたらいるかもしれません。

20代のころの話ですが、わたしも司法試験に合格して弁護士になったあと「社会人として知っておくべきもの」の筆頭のように思っていたので、「税金全体をマスターしよう」と考えた記憶があります。

ところが「税金を知るならこの1冊」のように銘打たれた本を読んでも、むずかしい専門用語のオンパレードでした。要領の良い人はそれでも理解してしまうのかもしれませんが、わたしは本との相性がよくなかったのか、当時はわかりやすい本がなかったのかはわかりませんが、仕事が忙しい毎日のなかで、ゆとりをもって理解することはできず、一度夢見た「税金マスター」は、あえなく挫折しました。
 
そして、全体を理解するのはむずかしそうだから、「身近な税金に絞ってみた方が良いのかもしれない」という印象が残りました。都合のよい、シフト・チェンジだったかもしれません。

たとえば、個人としてお金を得る人であれば、基本的に誰でも支払うことになる「所得税」について「勉強してみよう!」となったのであれば、「所得税」を集中して学ぶことがよいと思うのですが、その場合でも「どの程度まで知るべきか?」という線引きがとてもむずかしいという問題にぶつかります。わたしの場合、仕事の必要があり、独学で税法の部分を学んでいきました。

現在は、大学で税金に関する法律である「税法」を教え、その研究もしています。ただ、税法の専門家といっても、そのなかでさらに細分化されているのが現状です。「あの人は所得税」「この人は消費税」「法人税といえばあの先生」「資産税(相続税や贈与税)に強いのは……」というようにです。

わたしは大学教授になるまえは実務家でした。そのころは「税務訴訟」という国税当局(国)と裁判で争う行政訴訟があるのですが、その納税者側の代理人を約12年ほど、弁護士として担当してきました。

しかしそれでも、争点になったものの多くは所得税、法人税、相続税、贈与税などに集中していたため、専門性を持っていたはずの実務家でも税金全体について裁判をやってきたといえるほどの経験は得られませんでした。

もっとも、それが税に携わる多くの専門家の「実際」であり、現実だと思います。

こうして、弁護士として約12年、その後は大学教授(学者)として約10年、合計20年ちょっと「税法」にたずさわってきたわけですが、原点に戻り「税金全体についての1冊」をまとめたいと考えるようになりました。

これが今回の新刊『教養としての「税金」』(本書)の執筆に至った動機です。個人的には、20年以上の時を経て、ようやく原点に回帰できたといえるかもしれません。

今回の税金本の読み方

この本は専門家に向けて書いたものではありません。「税金の知識など全然ない」というような社会人や学生、長年払い続けてきたけどその実態はわからないままだったというシニアの人、自分でお金を稼いだことはないけど社会の仕組みとして知りたいという小学生、中学生、高校生も含め、幅広い世代の人に読んでもらえればと思っています。

年代を問わず、かつてのわたしのように「税金全体を知りたい」と思った人、あるいは、これまでどの本を読んでもマスターできず、挫折していたような人に、満足してもらえる本になったのではないかと思っています。

新刊である本書は1冊の完結した単独本です。もっとも、かたちとしては、本書にさきがけ刊行していた2冊の本の続編になっています。2017年に『教養としての「税法」入門』を、2018年に『教養としての「所得税法」入門』を、いずれも今回と同じ日本実業出版社さんから刊行しました。

あとづけになってしまいましたが、「まだシリーズ3冊のうちどれも読んだことがない」という人は、「税金全体の1冊」をまとめることができた本書から読んでいただくのが、1番効率が良いでしょう。(後編に続く)