生産性向上のためにも、人手不足に対応するためにも、もはや中小企業のデジタル化は待ったなしの状況です。本コラムでは、『中小企業のための 会社を正しくデジタル化する方法』(小社刊)の著者が、資金も人材も限られる中小企業がデジタル化に成功する方法を解説します。

※本記事は月刊「企業実務」連載コラム・「絶対に失敗しない! デジタル化の進め方」を一部編集のうえ転載したものです

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中小企業に最適なデジタル化を実現しよう

中小企業の業務デジタル化……。本連載のメインテーマは、

「日本の企業はデジタル化が進んでいないから、生産性が低い」

こう言われ続けるその根本的な原因を明らかにし、正しいデジタル化の方法を理解していただくことです。中小企業が、どのようにすれば自社の身の丈に合う、最適なデジタル化を実現してゆけるかについて、難解なデジタル用語の使用を避けつつ、ITが苦手だという人にもわかりやすく解説していきたいと思います。

第1回の内容は、ズバリ! 「中小企業のデジタル化失敗の原因」について解説していきます。

一般的に、中小企業がデジタル化投資を進める場合、自社でソフトウェアなどを開発できる部署や専門社員がいませんので、「開発してもらう・買ってくる」か「既成ソフトウェアを自社に合わせて改造してもらう」ことになるでしょう。ここで問題となるのが、「機械設備と業務ソフトウェアの根本的な違い」です。

たとえば生産設備であれば、加工品質や製造能力といった、ある「目標」となる数字があり、それを達成できる製品を選び、見積りをもらって投資判断し、導入して使い始める、というわかりやすい一連のプロセスを踏むことで、導入はほぼ滞りなく進めることができます。よほど最新の難しい装置でない限り、導入が失敗に終わることはありません。

ところが、業務ソフトウェアの場合は、その事情やプロセスが大きく異なります。まず理解しなければならないのは、「ソフトウェアはシステムではない」ということです。

ソフトウェアと人・機械類が連携して働く→システム

「システム」という単語は、日本ではソフトウェアと同義で使われてしまい、うまく区別できていないことが多くあります。

本来、システムとは「ソフトウェアと従業員などの人間、機械類がそれぞれ役割を分担しながら、定められたルールに則った動きをし、最終的な成果物を得るように働く」といった姿を示しているものです。

以下の図をご覧ください。設備を導入する場合とは違い、業務ソフトウェアの利用者たる社員は、社内あちこちの関係部署に散らばっています。必然的に、「大人数がいろいろな機能を使いつつ、横の連携をしながら会社のミッションを遂行する」という非常に複雑な動きをします。

つまり、ソフトウェアを導入しただけでは「導入が完了した」とは言えず、関係する大勢の人たちがそのソフトウェアをうまく使いこなし、全体として会社の仕事を前に進めているという姿(システム)ができあがって初めて「完了した」と言えるのです。まさに、会社の仕組みづくりそのものですね。

デジタル化失敗の共通パターン

さて、この基礎知識を前提に、中小企業における「デジタル化の失敗」とはどのようなものなのかを解説しましょう。

まず注目したいのは、「製品の選び方」です。わかりやすい例として、今回はどの会社でもあるであろう「受注管理」に着目してみます。

名称から探しても必要な機能を持つ製品がわからない

ある社長が当社に相談に来られた際のことです。社長は「顧客管理が難しいので、顧客管理システムの導入を考えている」とおっしゃっていました。

多くの顧客を抱え、受注の都度、納品・請求業務を行なっているごく普通の会社でしたが、営業事務担当の社員から業務負荷の改善を訴えられ、社長はそれを「顧客管理に課題がある」と認識したのです。

そこで社長は、「顧客管理」をキーワードにソフトウェアを探し始めました。世にあまたある顧客管理ソフトウェアのカタログを並べて眺め、どう選択すればよいのかわからずに相談にいらっしゃったのです。

ソフトウェアの機能と現場の困りごとが乖離

ところが、実際にその担当者の業務を聞き、どの業務でどのように負担が発生しているのかを分析したところ、彼らが実際に困っていたのは「顧客と販売する商品の紐づけ作業」でした。つまり、彼らが必要としていたのは「顧客管理」ではなく、「販売管理機能」だったのです。

となると、社長が集めたカタログの束はほぼ役に立ちません。もし、社長が集めたカタログのなかから製品を選択してしまい、それを購入していたら、おそらく大失敗に至ったはずです。

せっかく導入したソフトウェアが現場で役に立たない

この例とは別に、過去にいろいろと失敗を経験してから相談に来られた社長は多くいます。

生産管理ソフトウェアを導入したのに稼働の初日から使えなかった会社、在庫管理ソフトウェアを入れたのに、全社共通で使うことができなかった会社――。高額投資をしたうえで、「導入した→動いた→使えなかった」という悲劇的な失敗を経験した会社が実に多いのです。

「システム化」に失敗

また、「システムとして動かすことができなかった」失敗例もよく見かけます。ソフトウェア自体は必要な機能を満たしているものの、細かいところで担当者の業務と適合していないのです。

そのため、担当者がソフトウェアの求めに従って、使いもしないデータを事細かく入力し続ける「入力マシーン」になってしまった、といった本末転倒な状態も数多く見かけます。

業務ソフトウェアには特有の買い方がある

これらの失敗を避けるためには、一種独特の選び方・買い方が必要です。これは、デジタル化の経験がない人にとっては初めてのことなので、皆目検討がつかなくて当然でしょう。

インターネットを検索すれば、膨大な「導入事例・成功事例」を発見できますが、大きな会社の事例ばかりで、なかなか中小企業の例は発見できません。中小企業のデジタル化が最初の製品選びでつまずいてしまうのは、無理からぬことなのです。


著者profile

鈴木純二(すずき・じゅんじ)

ベルケンシステムズ代表取締役。IT導入コンサルタント。大手OA機器メーカーでハードウェアエンジニアを経験後、情報システム部、ネット経営戦略責任者等を歴任。独立後、製造業、サービス関係の企業のIT導入を支援する事業を展開する。