今年3月には一時24000円台まで下落した日経平均も今(22年8月25日時点)は28000円台と、数字上は回復しつつあります。一方、日本市場に大きな影響力を持つ海外の機関投資家の間ではここ数年で日本株担当チームの解散や国内拠点の閉鎖が進み、今や「ディープ・バリュー投資家かアクティビスト・ファンドしか投資しない、特殊な株式市場」とみなされるなど、長期的にみれば決して先行きが明るいとはいえません。
いうなれば「日本市場は逆風下にある」とも言えますが、そうした状況で外国人投資家の関心をひく要素として何があるのか。『日本株を動かす 外国人投資家の思考法と投資戦略』(菊地正俊著、以下同書)のなかから2点、ピックアップしてみてみましょう。
※本記事は同書の内容を抜粋し、編集したものです
※本記事掲載にあたり、同書が執筆された22年7月から状況が変わった点について「編注」として補足をしています
外国人投資家の回復期待が強いインバウンド需要
安倍政権の関係者、とくに菅前首相は規制緩和の成果を問われると、真っ先にインバウンド需要の急増を挙げていました。
安倍政権樹立前だった2012年に837万人だった訪日外客数は、コロナ前の2019年に3188万人と3.8倍に増え、政府は2030年6000万人の目標を掲げました。訪日外国人の旅行消費額も2012年の1兆円から、2019年に4.8兆円に増えて、軟調な個人消費を補いました。
ビザ発給要件の緩和や、日本政府観光局による積極的なマーケティング戦略が奏功しました。コロナで訪日外客数は2021年に25万人まで急減しましたが、政府は2030年目標をまだ降ろしていません。
岸田政権は2022年6月から外国人観光客の受入れを再開しましたが、1日当たりの入国者数の上限が2万人、添乗員付きといった制限が残っています。
欧米ではワクチン接種やPCR検査などの条件はありますが、海外旅行客の受け入れを緩和しているのに、日本の水際対策は依然慎重すぎるとの批判が海外から寄せられています(編注: 8月23日に「入国者数の上限の引き上げや、一部条件の緩和を進める方向で調整に入る」という報道がありました)。
中国政府がゼロコロナ策を維持し、中国人の不要不急の海外旅行を禁止しているので、日本政府が水際対策を緩和しても、すぐにインバウンド客が急回復するかわかりませんが、日本に行きたいというアジア人のペントアップ需要は大きいと推測されます。
輸出企業の海外移転で、日本経済は円安でも輸出が増えない構造になってしまったので、インバウンド需要の回復こそが円安による最大の恩恵だとの指摘があります。インバウンド需要が本格的に回復する見通しが高まれば、インバウンド関連株を買いたいという外国人投資家は多くいます。
外国人投資家は原発再稼働に関心
岸田首相による2022年4月8日の「電力逼迫を回避するため、再生可能エネルギーや原子力など脱炭素の効果の高い電源を最大限活用」するとの発言は、従来の姿勢から大きく変わったものとは思えませんでしたが、東京電力ホールディングスなど電力株が大きく上昇したほか、日本製鋼所などの原発関連株も上昇しました。
岸田首相は2021年10月の衆議院解散に伴う記者会見で、「再エネ1本足打法では安定供給や価格の問題に十分対応できない。原子力も1つの選択肢」と語っていました。岸田政権の経済政策の司令塔である山際大志郎経済再生担当相も、「菅政権のエネルギー政策が再エネを強調する『グリーン』だったのに対し、岸田政権のエネルギー政策は『クリーン』(再エネ+原子力)だ」と説明していました。
岸田首相の発言は、「安全が確認された」という形容詞がミソであり、現時点で、
- 原発を緊急再稼働する
- 東日本大震災以降に厳しくなった原子力規制委員会の審査基準を緩和する
- 原発を新設する
といった話は出ていません(編注: 8月24日に原発新増設などを含めた具体策のとりまとめを検討する旨が報道されました)。
原発再稼働に対する自民党内の意見も分かれており、内閣府の「『クリーンエネルギー戦略』に関する有識者懇談会」での議論も遅れています。
経済産業省の産業構造審議会・グリーントランスフォーメーション推進小委員会2022年3月の会合で、日本は大震災までの蓄積により、年1兆円規模の原子力産業のサプライチェーンが構築されたものの、いまは原子力技術・人材が継承の危機にあるとの認識が示されました。
ウクライナ戦争の後、英仏など欧州でも原発を新設する動きが出ています。日本は国際比較で電力料金が高いので、電力料金の上昇が続くと、日本企業の国際競争力が低下します。岸田首相が原発再稼働の加速を決断すれば、外国人投資家から歓迎されるでしょう。