「人の印象がどう形成されるのか」に関する研究は、洋の東西を問わず数多くあります。ここでは『「印象」の心理学』(田中知恵著)より、履歴書のような面接実施前に配られる資料が、面接官がもつ印象にどのような影響を与え、面接時の質問にどう響いたのかをみてみましょう。

※本記事は同書の一部を抜粋・編集したものです

何を見つけようとしますか ―「情報探索」の段階―

入学試験や就職活動の際に、面接を受けた経験のある方は多いだろう。また、採用選考等において面接する側を担当した方もいるかもしれない。

企業の採用選考においては一般的にエントリーシートや筆記試験、グループ・ディスカッション、面接等を通じて審査が行われる。多様なツールを用いるのは、応募者の能力やスキル、職業観、態度など、さまざまな側面を検討するためだ。とくに面接は複数回実施されることも多く、選考における重要なツールとして活用されている。

面接の担当者は、応募者の提出した書類や、すでに実施された試験結果等の資料を見ながら面接を実施する場合がある。ただし、それらに書かれた内容からあらかじめ応募者に対して何らかのイメージを持つと、面接での質問に影響が生じる可能性がある。イメージを確証するような質問をしてしまうのだ。

こうした確証的な「情報探索」について検討した研究(Trope & Thompson, 1997)を紹介しよう。ここからは、自分が実験の参加者であるつもりで読み進めてほしい。

研究では、実験の参加者に、2名の人物(ターゲットたち)が特定の社会問題に対し、どのような態度を持っているのか調べるように依頼した。その際、ターゲットたちには「はい・いいえ」で答えられる質問を合わせて5問たずねることができるが、直接的に態度をたずねることは避けるようにと伝えた。面接の場面でいうと、参加者が面接の担当者、ターゲットたちが応募者である。面接では質問を5つしかできない。5問をふたりの応募者に分配するという状況である。

なお、参加者にはターゲットの情報があらかじめ与えられていた。複数のパターンがあったが、そのひとつを例に挙げると、ターゲットのひとりはベジタリアンであり、もうひとりはテレビプロデューサーであった。この場合、参加者が明らかにすべきなのは、「毛皮のための動物とさつ(家畜類を殺すこと)」もしくは「映画産業への政府検閲」に対して反対かどうか、ということであった。

なお、あらかじめ別の参加者を対象に実施した予備調査により、ベジタリアンは「動物とさつ」に反対、またテレビプロデューサーは「政府検閲」に対して反対の態度を持つと思われることが確認されていた。

参加者が行った質問の数を比較すると、「動物とさつ」に関する態度を検討する場合には、テレビプロデューサーに対する質問のほうがベジタリアンに対する質問よりも多かった。他方、「政府検閲」に対する態度を検討する場合には、ベジタリアンに対する質問のほうがテレビプロデューサーに対する質問よりも多かった。これは、参加者があらかじめ与えられた情報からターゲットの態度を推測し、それ以上の情報を探索しなかった可能性を示唆している。

次の研究では、ひとりのターゲットに2問の質問をすることを参加者に求めた。質問の内容を分析すると、ターゲットの情報から推測される態度を確証するような内容が多いことがわかった。わたしたちは、自分の「信念」をたしかだと思うし、もし情報を集める機会を与えられたなら、その「信念」を確証するような情報を探索するのである。

この研究の参加者を採用面接の担当者、ターゲットを応募者に置き換えて考えてほしい。たとえば、応募者に関して「チームスポーツのリーダー」という情報が面接の担当者に与えられていたとする。そのカテゴリーに対して、面接の担当者が「外向的」といったイメージを持っているとしよう。

面接の担当者は、応募者がさまざまな場面で外向的にふるまうだろうと判断し、そのことを応募者にたずねない可能性がある。たずねたとしても「人とコミュニケーションをとるのは得意ですか」といった確証的な質問をしてしまうかもしれない。

何に目を向けておぼえますか ―「記憶の符号化」の段階―

わたしたちはさまざまな情報をおぼえて、保持している。そして必要な際にそれを取り出して、判断などに利用する。ここでは、情報を「おぼえる段階(符号化)」と「思い出す段階(検索)」において、「信念」がどのように確証されるのか考えていこう。

さきほどと同様、採用面接のシーンで考えてみよう。面接の担当者は応募者に関する多くの情報の中から、自分の「信念」を確証するものを、そうでないものよりも記憶する可能性がある。こうした「選択的な符号化」について検討した研究(Lenton et al., 2001)を紹介する。

研究では、実験の参加者に75の単語リストを示し、記憶するように告げた。じつは、半数の参加者が見たリストには、男性のステレオタイプに関連する単語が15語含まれており(「法律家」「兵士」など)、残り半数の参加者が見たリストには、女性のステレオタイプに関連する単語が15語含まれていた(「秘書」「看護師」など)。

この最初のリストを示したあと、参加者には3分間、無関連の課題を行ってもらった。その後、別の46語のリストを示して、その単語が最初におぼえたリストにあったかどうかたずねた。

実際には、46語のうち10語のみがリストにあった単語であった。ほかの36語の中には、最初のリストにあったものとは異なるが、男性のステレオタイプや女性のステレオタイプに関連する役割やパーソナリティを表す単語が含まれていた(たとえば、女性のステレオタイプとして、「図書館員」「温かい」など)。参加者の回答を検討したところ、最初におぼえたリストの単語が2回目のリストにあった場合、高い割合で正しく「あった」と回答されていた。

問題となるのは次の点である。実際には最初のリストになかったのに、ステレオタイプ(男性もしくは女性)と一致する単語は「あった」と回答されるという誤りが見られたのだ。

たとえば、最初のリストで女性のステレオタイプの関連語をおぼえた参加者は、2回目のリストではじめて見た「図書館員」を、最初のリストに「あった」と勘違いしていたのである。わたしたちは、自分の「信念」に合うものをおぼえ、また本当にはないものまでおぼえているように思うのである。

この研究の参加者を、さきほどの面接の担当者に置き換えて考えてほしい。「チームスポーツのリーダー」である応募者に対して、面接の担当者は「外向的」なイメージに合ったものを記憶する可能性がある。さらに、実際には応募者の話したことやふるまいの中になかったものでも、「外向的」なイメージに合ったものを誤って「あった」と思うかもしれない。

たとえば、社会的活動に関する質問に対し、応募者が「ボランティア活動に参加した経験がある」と話したとしよう。面接の担当者は、あとから応募者の回答について思い出すときに、「多くの人と協力しながら」ボランティア活動に参加したと記憶しているかもしれない。

応募者が参加したのは、ひとりで作業する内容であったのかもしれないが、「外向的」なイメージに合うように思い出されてしまうのである。


田中知恵(たなか・ともえ)

明治学院大学心理学部教授。博士(社会学)一橋大学。早稲田大学第一文学部哲学科心理学専修卒業後、出版社勤務を経て、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、博士後期課程単位取得退学。2016年より現職。専門は社会心理学、社会的認知。主な著書に『消費者行動の心理学:消費者と企業のよりよい関係性』『社会心理学:過去から未来へ』『社会と感情』(いずれも共著、北大路書房)、『消費者心理学』(共著、勁草書房)などがある。