視点2 クラウドへの根強い警戒心
政府は、2017年に「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」で「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出しました。各府省のシステム基盤の整備に当たって、クラウドサービスの利用を第一候補として検討する方針です。
しかし、行政の現場では、情報セキュリティや移行リスクへの漫然とした不安があるせいか、導入のハードルはなかなか下がっていません。他省庁の様子を見ながら、横並びで進もうとしている様子がうかがえます。
また、クラウドとAIの関係についての認識不足も垣間見えます。たとえば、お客様からいただく個別の相談事項のなかには「業務でAIを試してみたいけど、クラウドにデータを乗せたくはないので、ローカルで試す環境を作れないか」との要望も珍しくありません。
AI、データ分析の技術活用にあたっては、オープンなコミュニティで日々進化しているライブラリなどのアセットを上手く活用することや、データ分析という瞬発的なシステムリソースを必要とする作業の特徴を踏まえて、「ほとんどのAIはクラウドに乗せてセットで使うことで機能を発揮します」と答える、と驚きの声が聞かれます。
「クラウドこそ最もセキュアな環境である」と言える時代がもうすでに来ています。昨今のサイバー攻撃は、最新技術を利用しながらどんどん巧妙化し、脅威となっているのが現実。これに対して、クラウドサービスの提供者は、インターネットに接続されたオープンなサービスでありながら、こうした脅威に常に先んじて対応すべく、セキュリティ対策を日進月歩で高度化させています。
クラウド利用者は、その最新のセキュリティ対策をサービスとして受けながら、加えて利用者として必要な対策を上乗せることで、より強固な体制にしています。
同じレベルのセキュリティ体制を、利用者のローカル・システムに自前で用意した環境で実現しようとすれば、どれほどの費用がかかることでしょうか。最新技術がこれまでの慣習・常識を破壊しつつあるなかで、それをどう活用していくか。前提を見直し、変わる機運を組織として作っていけるかが非常に重要となります。
視点3 AIが行政と馴染まない?
どの省庁でもAIを積極的に取り入れたいと考えており、組織目標や中期計画のなかで、AIのキーワードが登場することも珍しくなくなりました。ところが、AIの特性が、従来の政府・行政における予算化・調達の方式に非常に馴染みにくいという問題があります。
国の調達は、請負契約が基本です。システム開発を例に取ると、あらかじめ定めた特定の仕様に基づいてシステム一式の導入費用=価格を決めて、事業者に入札してもらう仕組みとなっています。もしくは、システムハードウェアのサーバやPC端末のリース契約のように、月額固定方式で予算をつけて調達するケースがほとんどです。
一方、AIはあらためて述べるまでもなく、プロトタイプでデータを学習させてPoC(概念実証)を繰り返し、意図した効果が得られるかを確認できたあと、つまり、取組みを始めてからでなければ、最終的な能力や仕様を確定できません。まさに、お試しで始めてみて、ダメならやり直す「アジャイル」の開発方式を前提としています。
しかも、前述のように、従量課金制のクラウドに乗せて学習・稼働させるのであれば、使った分だけ支払う方式です。これも先立って精緻に試算することは難しいでしょう。国の調達においては、月々の金額が変動する契約はこれまでありませんでした。AIを行政の現場へスムーズに導入するには、このような予算の立て方や調達方式の見直しが必要になります。
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『社会保障DX戦略』では、国内外の先進事例を交えながら、日本の社会保障制度をテクノロジー(DX化)でどう変えていくべきか、具体的に提起しています。「行政サービスを変えたい」という方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。