労働契約法…労働契約のルールを定める

労働契約法では、労働契約に関するさまざまなルールが定められています。就業規則、懲戒処分や解雇の有効性に関するルールなどです。

本来、契約自由の原則により労働者と使用者はどのような契約を結んでもよいはずですが、立場の弱い労働者が不利益を被らないようにするために、労働契約法で一定のルールを定めているのです。そのため、労働契約法に反する契約を結んでも無効になります。

たとえば、「会社はいつでも従業員をいかなる理由であっても解雇できる」と契約書に盛り込んだとしても、労働契約法第16条(*1)に違反するため、このような条項は無効となります。この点では労働基準法と似ています。

*1 労働基準法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。

では、労働契約法と労働基準法の違いは、どこにあるのでしょうか。

労働契約法に違反したとしても、労働基準監督署が送検をして、検察官が起訴をすることにより裁判所が刑罰を科すことはありません。労働基準法は、行政の取り締まりの根拠となる法律で、この法律を根拠に労働基準監督署が行政指導を行うことができ、重大な違反行為については刑罰が科されます。この点が労働基準法と労働契約法の大きな違いとなります。

よく「不当解雇だ。労基署に訴えてやる」などのインターネット上の書き込みを見ますが、解雇予告手当についての規制について労働基準監督署は行政指導を行うことができても、労働契約法第16条に定める解雇の有効性について労働基準監督署は扱うことができず、裁判所に訴訟などを起こさなければなりません。

労働安全衛生法…労働者の安全と健康を守る

労働安全衛生法とは、労働災害を防止し、職場における労働者の安全と健康を守るための法律です。

たとえば、鳶(とび)職の労働者が高所で作業をする場合、「命綱があると作業を進めにくい」という理由で命綱の装着を拒否したらどうでしょうか。仮に「事故が起こっても使用者の責任は問わない」という契約を結んでいたとしても、当然のことながら認められません。

労働災害は労働者の生命に関わるため、たとえ労働者の同意が得られなくても、使用者はその防止対策を推進することを義務付けられています。労働者の安全と健康は、契約自由の原則よりも重視されるのです。

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なお、日本の労働法は法律のみでなく、政令・省令・指針・通達・告示なども存在し、実務上重要な役割を果たしています。人事・労務担当者であれば、細部にわたる理解も必要ですが、ひとりの働き手としてなら、それぞれの法律についておおまかに把握しておき、疑問に思うことが出てきたら、解説書などにあたられるとよいでしょう。


著者プロフィール:向井 蘭(むかい らん)

1975年山形県生まれ。東北大学法学部卒業。2003年に弁護士登録。現在、杜若経営法律事務所所属。経営法曹会議会員。企業法務を専門とし、解雇、雇止め、未払い残業代、団体交渉、労災など、使用者側の労働事件を数多く取り扱う。企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務めるほか、『企業実務』(日本実業出版社)、『ビジネスガイド』(日本法令)、『労政時報』(労務行政研究所)など数多くの労働関連紙誌に寄稿。共著に『時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題』(経営書院)、単著に『社長は労働法をこう使え!』『管理職のためのハラスメント予防&対応ブック 』(以上、ダイヤモンド社)、『最新版 労働法のしくみと仕事がわかる本』(日本実業出版社)、『改訂版 会社は合同労組・ユニオンとこう闘え!』(日本法令)、『改訂版 書式と就業規則はこう使え!』(労働調査会)などがある。