職場で上司や同僚と話をしていて「結局、何が言いたいの?」「何をどうしてほしい?」などと言われた経験はありませんか? 自分では順序立てて話しているつもりでも、相手にはうまく伝わらずにイライラさせたり、誤解を招いたり……。そんなザンネンな会話をする人には、ある共通した特徴があるようです。
※本稿は『使う! ロジカル・シンキング』(久保⽥ 康司・著)をもとに⼀部抜粋・再編集しています。

“ゴール”が見えないとイライラが募る

ルファ社の営業部で働く田中君も、コミュニケーション下手のひとり。「社員の電話応対」について気になることがあり、改善しようと上司に持ちかけてみたものの、どうにも話がかみ合いません。そのときの会話を振り返ってみましょう。

*シーン1* 田中君が、近藤課長に「社員の電話応対」について提言

 田中君  「近藤課長、最近当社のことで思うことがあるんですけど」
 近藤課長 「どうしたのかな?」
 田中君  「実は先日、お客様から電話があって、
       当社の電話に出る社員の応対が悪いとクレームを受けたのです」
 近藤課長 「そうか、そんなことがあったのか」
 田中君  「そういえば、私も出先からオフィスに連絡したとき、
       電話に出た人が面倒くさそうにしていると思えました」
 近藤課長 「そうか、私はそのような声を聞いたことはないけどな」
 田中君  「しかも、電話に出るときは、本来3コール以内に
       出るのがビジネスマナーだと思うのですが、当社は
       5、6回鳴っても平気で出ないですよね」
 近藤課長 「……。で、君は何が言いたいのだ」

この場合、なぜ田中君は近藤課長をイライラさせてしまったのでしょうか。近藤課長からすると、田中君の話は問題を羅列しているだけにしか聞こえません。「何が言いたいのか」と聞き返すのは、“話のゴール”が見えないからです。

では、この会話の場合のゴールとは何でしょうか。考えられるのは、近藤課長に何らかの行動を起こしてもらうことでしょう。たとえば、「社員の電話応対時のマナー改善を促してほしい」「当社の電話応対のマニュアルを作成してほしい」「〇〇さんの電話応対の態度が悪いので何とかしてほしい」といったことです。

ところが、田中君は近藤課長に対して変に気をつかってしまい、自分の思いをストレートに伝えることができていないのです。これでは、察しのいい人でない限り、本音に気づいてもらうことは難しいでしょう。

このような遠回しの言い方は、かえって相手をイライラさせてしまいます。自分が何を言いたいのか明確にしておかないと、聞き手は愚痴を聞かされているだけの状態なので、「で、結局どうしたいの?」という気持ちになります。

「結局、何が言いたいの?」とよく言われる人は、聞いている側からするとゴールが見えないのです。話し手としては「相手にどうしてほしいのか」というゴールを明確にしなければなりません。

もちろん、気の置けない友人との飲み会や家族との日常会話なら、必ずしもそんな必要はありません。先ほどの近藤課長と同様のやりとりを、飲み会の席で同僚の小野君と交わしているとしましょう。

*シーン2* 田中君と同僚・小野君の飲み会での会話

 田中君 「うちの社員は電話応対が悪くってさぁ、
      得意先からの評判が悪いんだよな」
 小野君 「そうそう、わかるわかる」
 田中君 「それに自分が外出先からオフィスに電話したときなんか、
      まったく愛想がないんだよね」
 小野君 「それって、ひどいよね」
 田中君 「ビジネスなら3コール以内に出るのがマナーでしょ。
      うちは5回も6回も鳴り響いているよ」
 小野君 「そりゃ、お客様もイライラするよね」

こんなふうに、たわいもない会話を楽しむことが多いはずです。
職場での会話とは、そもそも状況が違うことを認識しておきましょう。

親しき仲にも“ゴール”あり

然ながら、同僚の小野君であっても、仕事となれば事情は変わってきます。たとえば、業務中に次のように話しかけたら相手はどう思うでしょうか。

*シーン3* 田中君と同僚・小野君の職場での会話

   田中君 「先日の会議は疲れたなぁ」
 小野君 「大変だったね。お疲れさま」
 田中君 「部長の大演説会を聞いているようなものだったんだ」
 小野君 「いつもと同じ演説ね」
 田中君 「明日もまた会議なんだ」
 小野君 「それは仕事にならないね」
 田中君 「資料作成もいっぱい溜まっているし」
 小野君 「それは溜め込まないほうがいいよ」
 田中君 「こんなときに限って、
      ハラスメント研修に参加しないといけないんだ」
 小野君 「……。で、僕にどうしろって?」

小野君は、なぜイライラしているのでしょうか。もうおわかりですね。会話にゴールがないからです。田中君は部長の大演説会について文句を言っていますが、部長の大演説を止めさせるのは、そう簡単ではありません。

その一方で、小野君に「会議に代理で出席してほしいのか」「溜まっている資料作成を手伝ってほしいのか」「ハラスメント研修に代理で参加してほしいのか」、もしくは「単に愚痴を聞いてほしいのか」……不明です。

このような場合、何かお願いごとをすることもゴールですが、愚痴を聞いてもらって溜まったうっぷんを晴らすのもゴールです。もし、愚痴を聞いてもらってうっぷんを晴らしたいのであれば、そのゴールを最初に伝えておかないと相手はどうすればよいのか対応に困ってしまいます。

「ちょっと、愚痴を聞いてもらえるかな。いろいろあってうっぷんを晴らしたいんだ」とあらかじめ伝えておくと、相手はゴールがわかって安心できます。じっくり時間をとったほうがよいと思えば、「後でゆっくり聞かせてもらうね」などと返すことができ、その場でイライラすることもないでしょう。

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ビジネスにはいま生産性や効率が求められる時代。あなたの説明を聞く相手は、多くの時間を割いてはくれません。そのためには、自分の言いたいことをきちんと整理し、わかりやすく伝えることが大切です。その方法をお知りになりたい方は、拙著『使う! ロジカル・シンキング』をぜひお読みいただければと思います。


著者プロフィール:久保⽥ 康司(くぼた やすし)

マネジメント・ラーニング代表取締役。2012年マネジメント・ラーニング設⽴、⼤企業から中⼩企業まで⼈材育成のコンサルティング、研修プログラムの開発、インストラクター養成、執筆や講師などを⾏なっている。ロジカルトランプ(商標登録)開発者。関⻄⼤学社会学部卒業後、1989年鐘紡⼊社、ファッション事業部で営業を10年経験。99年ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの運営会社ユー・エス・ジェイに開業メンバーとして参画し、マーケティング企画室マネジャーや近畿地区統括マネジャーを歴任。2005年より三井住友銀⾏グループのSMBCコンサルティングにて⼈材育成に携わる。関⻄学院⼤学⼤学院・商学研究科修了(MBA)。神⼾⼤学⼤学院・経営学研究科修了(MBA)。同志社⼤学⼤学院・総合政策科学研究科・博⼠課程後期課程修了(博⼠)。