「はい、でもお金にコストがかかっていると思ったら、見方が変わる気がします」
「その通りや。さっきも言うたけど。おまえには給料だけじゃなく、社会保険料も、備品も、オフィスのスペースも、光熱費も、教育費も、採用費も、バックオフィスの費用もかかっとる。それらはすべて会社が調達したお金から払われていて、そのお金にはコストがかかっとるんや。だからその資本コスト以上におまえはお金を増やす責任があるっちゅうことや」
「そんなこと、考えたこともありませんでした。だから小林さんは、僕に会計リテラシーがないって言ったんですね」
「そうやな。その責任を自覚したうえで、お金の流れをイメージして、お金をどのように増やしていくのかを意識することが大事や。こうした考え方のセンスが会計リテラシーやな」
なるほど、この視点を持てば、仕事への姿勢も変わる気がする。
「そんなセンスが身についたら、もっと仕事はうまくいくと思います」
「その通りや。こうしたセンスを持っていれば、決算書もただの数字の羅列じゃなく生きた数字として読めるし、仕事に取り組む姿勢や出す結果も変わるし、仕事だけやなく人生の中でのお金の使い方やお金の増やし方も変わってくる。だから会計リテラシーを身につければ、仕事も人生も変わるんや」
人生も変わる? 仕事が変わるのはわかるけど、会計リテラシーは人生にまで影響するものなのか?
「会計リテラシーを身につけると、仕事だけじゃなく人生も変わるんですか?」
「そらそうや。いまおまえ、お金に困っとるやろ。それは会計リテラシーがないからや。会計の知識はあるのに、それを人生に活かせてないってことやな」
「そうなんです。本当にお金がカツカツで。それも会計リテラシーを身につければ解決できるということですか?」
「まあそれはおいおい説明していくわ」
「お願いします!」
「まとめると、会計リテラシーっちゅうのは、
1. お金にはコストがかかっていることを意識していること
2. 資本コスト以上にお金を増やす責任を自覚していること
3.レバレッジを活用すること
4.お金の流れをイメージできていること
5.お金を増やすための損益構造を理解していること
この5つやな。3、4、5についてはまた教えたるわ」
僕はパチョーリの言うことをノートにメモした。
「今日のところはこれくらいにしとこうか。もう遅いし、今日はもう寝な」
ふと時計を見ると、夜中の3時を回っている。
「じゃあワシはもう寝るからな」
そう言うとパチョーリは、僕のベッドに入って眠り始めた。
「え、そこは……」
「おまえ客人をソファに寝させるつもりか? ワシはここで寝る」
と言うより早く、パチョーリはイビキをかき始めた。これは果たして夢なのか現実なのか? こんなにも貴重なことを学べたのだから、夢であっても構わない。でも夢だとしたら、この続きはもう学べないのだろうか。
もうゴチャゴチャ考えるのはやめた。僕もソファに毛布を引いて眠りについた。
ルカ・パチョーリの会計の教えはまだまだ続きますが、第1章はここまで。本書では、ここでは書けなかった「レバレッジの活かし方」や「お金を増やすための損益構造について」などお金に振り回されないための「会計の知恵」を紹介しています。
気になる方はぜひ本書をお読みください!