著者累計40万部のベストセラー著者・天野敦之氏がストーリー形式で「会計リテラシー」を解説する『会計の神さまが教えてくれたお金のルール』(天野敦之著)第1章、4回に分けて全文公開します。今回は第4話(これまでのお話:第1話第2話第3話)。

会計リテラシーについて理解を深めたつもりの僕は、ルカ・パチョーリに「給料にもコストがかかっていることを意識したことがあるか?」と聞かれる。自分の給料にコストがかかっているなんて考えたこともなかった僕は言葉に詰まってしまうが……。

資本コスト以上にお金を増やす責任

「ここで大事なのは、調達したお金に資本コストっちゅうコストがかかっていることへの自覚、そしてその資本コスト以上にお金を増やす責任への自覚や。その責任を果たさなければ、借金も返せへんし、株主の期待に応えられず株価が下落し、最悪の場合は会社の存続が危ぶまれる。それを理解することが一番の大前提やな」
「はい、わかりました」
「いや、本当の意味ではわかっとらん。おまえがもらっとる給料、その給料にもコストがかかっとるって意識したことがあるか?」
「え、いや、その……」

僕は言葉に詰まった。僕の給料にコストがかかっているなんて、これまで考えたこともなかった。

「給料だけやない。会社が負担しとるおまえの社会保険料、おまえを育てるための教育研修費、仕事で使うとるパソコン、机、オフィスの賃料、光熱費、営業を支える事務や総務や人事などのバックオフィス、それらを払うためのお金にもすべてコストがかかっとることを意識しとるか?」
「いえ……、まったく意識していませんでした」
「そうやろな。たとえばおまえが会社で使うとるパソコンが20万円で、資本コストが仮に10%だとするな。その場合、20万円プラス、その20万円を調達するのにかかった資本コスト2万円、つまり22万円以上のお金を、そのパソコンを使うことで生み出さなあかんってことや」

もし資本コストが10%だったら/本書39ページより

言われてみれば、僕がふだんなにげなく使っているパソコンや机も、会社が集めたお金で買ったものだ。ということはそのお金にかかっているコスト以上のお金を生み出す必要がある。当たり前のことなのに、そんなことを意識したことはこれまでなかった。

「つまりな、ほとんどの人間は、物事を一面しか見ていないっちゅうことや」
「一面だけ?」
「おまえも会計を勉強したことがあるなら、会社の備品が資産の部に計上されることは知っとるな。それくらいは簿記3級を持ってる人間なら誰でも知っとる。でもその備品を、ただ資産としてしか見ていないんや」
「備品は資産である以外に、他の面があるということですか?」
「そうや。備品があるということは、その備品を買うためのお金をなにかしらの方法で調達しとる。ということはそのお金プラス資本コスト以上のお金をその備品は生み出す必要がある、ということや」
「そんなこと考えたこともありませんでした」
「つまり、資産の部に計上されている資産の金額はどれも、少なくともそれ以上のお金が生み出される、ということも意味しとるんやな」

資産の部に計上されている備品にそんな意味があったなんて。僕は本当に一面しか見ていなかった。