「自分の仕事ぶりに比べて給料が安い」「カード払いで毎月ギリギリだ」「マイカー、マイホームは持ってこそ一人前」……この感覚、どれか1つでも当てはまる人は「会計の知恵」が足りないかもしれません。

新刊『会計の神さまが教えてくれたお金のルール』(天野敦之著)では、収入や無駄づかい、住宅ローン、投資、副業について、近代会計の父、ルカ・パチョーリが「頭のいいお金の使い方・増やし方」を物語で解説します。ここでは、その第1章を4回に分けて全文公開します。

近代会計の父、ルカ・パチョーリ現わる

「こんな給料じゃ正直見合わないよなあ」

僕は隣に座っている岡田に声をかけた。

今日は勤め先の営業部第二課の飲み会だ。僕は仕事ではおもに法人向けに、営業支援システムのソフトウェアとハードウェアの販売を担当している。

僕と岡田は同期で、今年入社4年め、2人とも半年前に主任に昇進したばかりだ。昇進したと言っても昇給はわずかで、その割に部下の面倒を見る責任は増えた。働き方改革の一環で残業は禁止されたが、仕事量は減らない。結局、自宅に仕事を持ち帰らなければ終わらない状況だ。給料は極端に安いわけではないが、労働時間には見合わない。

「松井くん、あなたって本当に『会計リテラシー』がないわね」

振り返ると、営業課長の小林さんが座っていた。いつの間にそこにいたんだろう。さっきは別のテーブルにいたはずなのに。

「商学部出身で簿記も持ってるんでしょ? そういうのを『宝の持ち腐れ』って言うのよね」

上司の小林さんは最年少で営業第二課長に昇進した、いわゆるバリキャリ女子だ。表現がストレートで、裏表がないので、上司からの信頼も厚いし、部下からも人気がある。ただお酒が入ると口が悪くなるという難点がある。そこも魅力の1つではあるが、標的にされるとつらい。

「あの、『会計リテラシー』ってどういう意味でしょうか?」*1

「会計の知識を応用したり活用したりする力のことよ。ビジネスをしていくうえでは、簿記の何級を持ってるとか、仕訳ができるとかは、はっきり言ってどうでもいいのよね。それよりも、会計の知識を活かせるかどうかが問題なのよ」

「会計の知識を活かす力……」

僕はつぶやいた。僕は一応、大学は商学部出身で、会計の授業も受けていたし、簿記3級も持っている。でも経理部の仕事はあまり興味が持てなくて、就活のときに営業を志望して、志望通り営業部に配属された。

営業の仕事では会計や簿記の知識を活かす機会もなかったので、自分が商学部出身であることや、簿記の資格を持っていることなど、自分でもすっかり忘れていた。

「でも、営業で会計の知識ってどうやって活かしたらいいんですか?」

「あなたねえ、もう主任でしょ。新入社員じゃないんだから、それくらいまずは自分で考えてみなさいよ」

会計を活かすっていったいどうしたらいいんだろうか? そもそも会計のことなんてすっかり忘れてしまったから、再度勉強しなおさないと始まらないのかもしれない。

「まあでも、会計リテラシーが身についていれば、『給料が見合わない』なんて言葉は出ないと思うわよ」

会計リテラシー。会計の知識を活かす力。いったいどういう意味だろうか? 僕はこっそり手元のスマホで検索してみたが、ウィキペディアには書いてないし、はっきり定まった答えは見つからない。小林さんの独自の理論なのだろうか?

小林さんの言葉が気になりつつ、二次会のカラオケに行き、めずらしく酔っ払いながら終電で家に帰った。

僕は静岡の出身だが、都内の大学に進学するため都内で1人暮らしを始め、就職してからもずっと都内に住んでいる。大学時代から付き合っていた彼女と一緒に住もうと思って、半年前に主任に昇進してから少し広い家に引っ越したのだが、そのすぐあとに彼女とは別れてしまった。

それからは仕事と家の往復で、新しい出会いもないし、なんかパッとしない。会社の仕事にも情熱を感じなくなってきたし、これといった趣味もない。給料も決して低いわけではないのに、なぜかいつもお金はカツカツ。先月

26歳になったけど、人生ってこんなもんなのだろうか。