昨今、世界規模のリセッション入りが懸念されている。事実、米中日欧の四大経済圏が抱える不安要素を前に様子見を決め込む投資家も多く、さながら「嵐の前の静けさ」といった雰囲気が市場に漂っている。
それでは、その「嵐」はいつ訪れるのか。相場が「いくらになるのか」ではなく「いつ、いくらになるのか」と、時期と水準を組み合わせた予測で定評がある若林栄四氏の最新刊『黄金の相場予測 パーフェクトストーム』より、ドル円相場がどうなるのかを見てみよう。
※本記事は同書より一部抜粋のうえ、編集したものです。
ドル円相場はこうなる
現在、ドル円相場には数百兆円に上る円ショートポジションが積みあがっており、このポジションが現在の100円台に円相場を歪めている。
その100円台の円相場が、たとえばNYでラーメンを食べると20ドル=2000円以上という、日常感覚で許せない歪みになっている。一方、日本に殺到する3000万人を超える外国人観光客は、この不当な円安をテイクアドバンテージして、不当に安い旅行をエンジョイしているのである。
この数百兆円のマネーは、動きのとりにくい直接投資よりも、動きの速い証券投資などのファイナンス通貨として、円が使われているものである。金利が安い円で債務をつくり、それをリターンの高い外貨の証券投資に向ける。こうした取引を膨大に行なっているヘッジファンドがあるとすると、バランスシートの右側が円債務、左側は外貨建て証券投資としてバランスしている。
また、日本の機関投資家も低金利の日本の投資をギブアップして、大量の外貨建て証券を保有しているが、これも円ショートポジションである。この均衡が崩れるときは、左側の証券投資が、値下がりで甚大な被害を受けるときである。
たとえば米国株の投資ポジションが米国株暴落により甚大な被害を受けると、ヘッジファンドは、この左側を処分する必要がある。そうすると今度は左側が外貨キャッシュ、右側が円債務という形になり、もろに為替の円ショートポジションが現出する。
すでに米国株下落によるマーケットリスクで巨額の損失を被っているヘッジファンドは、残った巨額の円ショートポジションの持つマーケットリスクに耐えられない。したがってこの不要な円ショートポジションを処分して円を買い戻すことになる。そのころにはすでにリスク・オフで円は相当円高になっている。
そこへ最後の円のパニック買いが起こる。同じように円のパニック買いが起きた、1994~1995年を見ると、1994年初め1ドル113円だった相場が、1995年4月には一瞬80円割れまで一気に円高が進行している。
それと同じことがこれからの数年(4~5年)で起こるのである。なぜなら米国株が暴落するからである。
最終的には2023年に65円まで円高が進行すると申し上げている。人間というのは、追い込まれると恐怖に押しつぶされて、してはいけないことをする。それが2023年の円買いであり、あとで振り返ってみればどうして65円台で円を買ってしまったのかと後悔することになる。
さて近未来の円相場はどうか。下図1のごとく、2011年10月31日のドル安値75円53銭は1978年10月カーターショック安値177円、1995年4月の79円75銭の超円高、2011年10月と、いずれも約16年半のインターバルを置いた正当なドルの底、円のピークである。大局を見ると、図のごとくドル円はおおむね8年ごとにドルの高値をつけ、16年半ごとにドルの安値を付ける動物である。
これからの推移を考えると、2024~2025年に、一度ドルの高値を見て、2027~2028年にドルの安値を見るというのが一般的な見方となるだろう。
そのシナリオの上に図2を重ね合わせると、ドルは11年11か月ごとにきれいに底値を付けている。次の11年11か月は2023年9~10月となる。現在の相場は大底2011年10月31日の75円53銭から3年7か月後の2015年6月に示現した高値125円86銭を経て次の安値2023年9~10月の65円(筆者の予測)への途中である。
2017~2018年の2年間は105~115円の狭い範囲での安定的な推移となっている。いってみれば、次の大きな相場変動へのエネルギーを蓄えている時間帯である。
しかし、その安定も大底75円53銭からの31四半期(7年9か月)の2019年7月末あたりまでだろう。相場論的に表現すると、125円86銭の高値を底値からの14四半期で達成してしまったので、トータル47.75四半期(11年11か月)までの時間がありすぎ、31四半期目の2019年7月末まで相場が足踏みをしていたということである。
31四半期から47.75四半期までは16.75四半期という比較的短い時間が残されている。この時間軸で110円から65円までをやろうとしている相場である。
図3で見ると、大底75円53銭からの56か月(短月61か月)目で、BREXITボトム99円01銭を見ている。そして、そのBREXITから新しいサイクルがスタートしている。新しいハーフサイクルともいうべきか。ドル円は1987年、1999年、2011年とほぼ11年のインターバルを置いて大きな底を見ている。
2016年6月のBREXIT安値は2011年10月の大底75円53銭から4年8か月しか経過していない時点で付けた底であり、この11~12年サイクルのハーフサイクルあるいは3分の1サイクルのボトムと考えられる。したがって、75円53銭に始まったサイクルは、その2回目の後半のサイクルに入っている。
75円53銭の底値から10~11年経過しないと底にはならない。また後半のサイクルだから、前半のハーフサイクルボトムの99円よりはさらに円高が進行してからでないとボトムアウトしない。それでは最初のサイクルが短月61か月であったので、後半のサイクルもBREXITからの短月60か月近辺だろうと考えられる。
そこから類推すると、サイクル前半のピーク2016年6月5日の125円86銭からの黄金律、すなわち短月73か月(36・5単位。短月1か月=28日=4週間)となっているので、73×4=292週となり、2021年1月初めが次のドルの底ということになる。この2021年1月は前回ハーフサイクルの4年8か月(2011年10月~2016年6月)に対し、BREXIT2016年6月から4年7か月のインターバルと美しい。
2016年6月の天井125円86銭から下方に18度チャネルを引き、それを2021年1月にプロットすると、18度チャネルの最下限は93~94円で、もうひとつ大事なその18度チャネルの最後のカウンター18度線で見ると87円となる。
2021年1月5日がその292週目となり、そのタイミングで125円86銭からの週足18度線は106円96銭に位置する。そのポイントから36・5単位14円60銭を減じると92円36銭であり、これが2021年1月5日の円高値というのが黄金律の方法論で推論されるところである。
もう一つは、2021年1月5日に天井からの18度線は106円96銭に位置するため、そこから一般的な38・2単位のチャネルを引くと19円10銭となり、106円96銭マイナス19円10銭の87円86銭というのもあり得る。レベルは87~92円としか申し上げられないが、タイミングは2021年1月5日から10日以内だろう。
ただ、図3を見ると、2021年1月のドルの底の前に、天井125円86銭からの大事な短月59か月236週目の2019年12月~2020年1月に、96~101円でいったん安値を見るもののように見える。
著者プロフィール
若林栄四(わかばやし・えいし)
1966年、京都大学法学部卒業。東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。同行シンガポール支店為替課長、本店為替資金部課長、ニューヨーク支店次長を経て、1987年、勧角証券(アメリカ)執行副社長。1996年末退職。現在、米国(ニューヨーク)に在住。日本では外国為替コンサルタント会社である(株)ワカバヤシFXアソシエイツの代表取締役を務める。
歴史観に裏づけされた洞察力から生み出される相場大局観で、国内外の機関投資家、個人投資家に絶大な人気を誇る。著書に『デフレの終わり』『不連続の日本経済』『富の不均衡バブル』『覚醒する大円高』『ヘリコプターマネー』(いずれも日本実業出版社)などがある。