昨今話題となっている「男性の育休問題」。残業規制や有休取得の義務化など、「働き方改革」の名の下に労働環境の改善が進む今でも、なかなか浸透しないものの一つです。雇用保険から育児休業給付金がおりるとはいえ、手取りが下がることが多いことも「男性の育休取得が一般化しない原因」としてよく挙げられています。

そのため「育休はとれないまでも、時間配分を極力家庭に振り分けたい」と考えている人は多いでしょう。そして、それを実行に移せていない人もまた、多いと思われます。シニア不動産コンサルタントであり、『捨てる時間術』の著者・若杉アキラさんもその一人でした。

今回は育児と仕事のバランスに悩んでいる方向けに、若杉さん自身の後悔と発想の転換に基づいた「“最速”ではなく“最適”を目指すための、時間に対する考え方のヒント」を語っていただきました。現在進行形で悩んでいたり、お子さんの出産を控えている方は、参考にしてみてください。

「ワーカホリック」で気づけば娘が3歳に

仕事ばかりだった毎日、いつも時間に追われていました。大卒で就職したのは飲食店。朝は満員電車に身を任せ、8時15分までに出社、夜11時45分に退社して終電に揺られ帰宅する。いま振り返ると信じられないようなブラック労働でしたが、仕事にはやりがいもあったため「忙しいのは仕方がない」と思っていました。

当時の私は「仕事の成功=人生の成功」と信じて疑いませんでした。だから少しでも早く出世したいと考え、仕事に没頭していたのです。こうした考え方は、その後三度の転職を繰り返し、仕事が飲食から不動産に変わり、会社員から独立起業してからも変わらずに、いつも「最速」で仕事をこなすことばかり考えてきました。 

私はずっと「ワーカホリック(仕事中毒)」で、仕事以外のまわりのことが見えていなかったのです。 やっとそのことに気づいたのは、長女がもうすぐ3歳になるころでした。

人生を変えた「娘と2人きりのお出かけ」

ある日、妻から娘と公園にいってほしいと言われました。それも家からすぐ近くの公園で、いつもは妻が遊びに連れていきます。最初は、なぜ妻がそんなことを言うのかわかりませんでした。

その日は日曜日で、私はこれから休日出勤して残っている仕事を片づけるつもりでした。でも、妻がそんなことを言い出すのはこれまでなかったので、娘と一緒に公園に行くことにしたのです。

これが、私にとって初めての「娘と2人きりのお出かけ」でした。少し緊張しつつ、小さな手をつなぎながら公園に着くと、娘は「ママとブランコした」「お砂場した」といろいろ話してくれます。

でも、娘の話の中にはパパである自分はいませんでした。

「私はいままでなにをやっていたのだろう……」

無邪気に遊ぶ娘を見ながら、仕事と引き換えに家族との時間を失い、わが子の成長を見つめる時間まで逃してきたことに気づいたのです。当然ながら、その時間は二度と「取り戻せない時間」です。

「行きたくもない飲み会」で人生は豊かにならない

 それから私は、家族との時間を増やすために、これまでの時間の使い方を変えました。自分にとって本当に大切な時間を見極め、それ以外は捨てていくことにしたのです。

「行きたくない飲み会」「惰性の付き合い」「社会的な成功」に時間を使っても、自分の人生が豊かになるとは思えませんでした。1日は24時間と限られています。大切なことに使える時間を増やすには、ムダな時間を捨てるしかありません。

とはいえ「ムダを捨てる=機械的に効率化する」ではありません。まわりから効率が悪いと言われても、自分が好きなことは捨てなくていいのです。むしろ、その好きなことに集中するためにムダを捨てます。時間のムダを捨てれば大切なことに使える時間が増えるからです。

たとえば、「社会的な成功」を目指して朝から晩まで仕事に没頭し、家には寝に帰るだけ――そんなビジネスパーソンも少なくはないでしょう(私も長い間そうでした)。でも、社会的な成功ばかり求めても幸せにはなれません。

「社会的な成功」とは、年収アップや昇進、ステータスのある企業への転職など「他人がうらやむような成功」のことを指します。しかし、「他人がうらやむような成功」と「自分が求める成功」は、決して同じではありません。にもかかわらず「社会的な成功=自分が求める成功」と思い込んでしまうと、本当に自分が求めている成功と違う方向に進んでしまうこともあります。

自分が求める成功が欲しいなら、「社会的な成功」よりも「自分的な成功」を目指せばいいのです。そうすれば、他人を基準にした成功に振り回されなくなります。

時間・お金・名声などは自分に必要なぶんだけあればいいのです。そうすれば、ムダに働きすぎて家族との時間を失うことや他人から認められるために「したくもないこと」をする、時間のムダを捨てられます。仕事に没頭して社会的な成功を目指し、「最速」でがむしゃらに仕事をこなしている間も時間は止まってはくれません。

私自身、痛感しました。「仕事を軌道に乗せて落ち着いたら、家族の時間を持ちたい……」と考えているうちに、生まれたばかりと思っていた娘は3歳になっていました。もう1、2歳のころの娘と一緒に遊ぶことはできないのです。

「仕事か私生活か」の二項対立で考えない

ほとんどの仕事はあとから挽回することのできる「取り戻せる時間」です。しかし、日々成長していく幼い子どもと過ごす時間は、もう二度と「取り戻せない時間」なのです。

とはいえ、生活していくためには仕事も大切です。ですから、「仕事か私生活か」という二項対立で考えるのではなく、「仕事も私生活も」という生き方があってもいいのです。

仕事の充実には私生活が、私生活の充実には仕事が深く関わっています。

「仕事だけの部分最適」よりも、「仕事+私生活=人生の全体最適」を考え、仕事をスピーディにこなす「最速」だけではなく、自分にとって「最適な『人生のペース』」を見つけていくことが、私たちビジネスパーソンにとって必要なのではないでしょうか。