──読者が自分で選んで、役立てればいいわけですね。
華僑流は全方位外交ですから、あらゆる場面で使えます。本書にも書いたように、華僑はなんらかの事情があって祖国を後にした非エリートですから、勝つことよりも負けないことを重視する。ここがアメリカ流などと違うところだと思います。
アメリカ流は、科学的であることを重視します。科学的、統計的に導いた解を金科玉条のごとく正解として「この通りにすれば勝つ」と考えますが、実際には時期や場所、立場によって人が受ける制約条件は全然違いますから、意外に応用が利かないのではないでしょうか。
本書を読みながら自分に置き換えていただいて、「自分の長所はここだからこの奥義を使ってさらに強くしよう」「短所はこの奥義で克服できそうだ」などという風に本書を使っていただければいいと思います。また、自分以外の人を操る方法もご紹介していますので、部下の育成や、上司やお客さんへの心理操作にも使っていただきたいです。
華僑の生活にはお金が溶け込んでいる
──華僑と言えばお金持ち、というイメージですが、お金に対する考え方で、日本人ともっとも違うのはどんなところでしょう?
華僑の生活には、お金が完全に溶け込んでいます。日本人がテレビやネットを楽しむように、華僑は老若男女問わず、みんなが日常会話の中でお金の話をしています。貨幣経済の世の中に暮らしているのだから、お金の話を家族や友人、職場の同僚の間で話すのは当然、という感覚です。お金をただの道具、ツールと捉えていますね。
この感覚が、お金の話をどちらかというと下品と考える一般的な日本人との大きな違いでしょう。
──実際のお金の使い方ではどうですか。
華僑は友人同士でお金をどんどん融通し合います。日本人の場合は、友達にお金を貸してほしいなどとは恥ずかしくて言えない雰囲気があります。言われたほうも困ってしまうでしょう。
お金をツールと考える華僑同志の場合、投資のために借金が必要になったら、友達にも「いい話があるから貸して」と平気で頼むし、貸すほうも儲かる可能性があるから喜んで出す。単なる貸し借りも「友達なんだから」ということで気軽に行われます。少々損をしたとしても、お金より友情が大切だから気にしないのです。
お金より大切な「仲間」
──たしかに『華僑の奥義』を読むと、仲間や人間関係を非常に大事にする彼らの姿が浮かび上がります。ズバリ、「華僑流人付き合いの極意」を教えてください。
多くの華僑が「仲間を作るために生まれてきた」と言います。お金儲けばかりしているようなイメージがあると思いますが、実際は全然違います。むしろ、仲間を増やすためなら出費は惜しみません。
彼らは「天下」という言葉を、お天道さまの下、という意味でなく「自分の仲間の範囲」という意味で使います。天下を広げる=仲間を増やすには、人脈を隠さないほうが得策です。他人にも惜しみなく仲間を紹介し、輪が広がることを喜びます。
──華僑の人たちと付き合う中で、騙されたことや危険な目に遭ったことはありませんか? 反対に華僑の仲間にピンチを救われたことは? 差し支えない範囲で教えていただければ。
華僑に関してはありませんね。中国本国人に迷惑をかけられることはよくありますが(笑)。本国人相手に困ったときは、いつも華僑に助けてもらっています。
成功する人の共通点
──最後に、ビジネスで成功する秘訣についてうかがいます。大城さんは日本人の若い経営者とのお付き合いも多いと思います。成功している経営者たちに共通点はありますか。
「お願い上手」なことと「自分で考えることができる」ことです。
会社勤めでも起業している人でも、一人でできることは限られています。いろいろな人に上手に「お願い」できる人は、目標を達成しているように思います。
現代の日本社会は、「自分で考える」ということがすごく難しくなっているように感じます。たとえば、ビジネスパートナーと会食するお店を選ぶ時、ネットで調べれば評価が出ているから、半ば自動的に、それを基準に選んでしまう。その方が楽ですからね。
ところが華僑は、ネットの書き込みなどはまったく信じません。彼らは、いい評価があればサクラと思い、悪い評価があればライバルの書き込みと考えます。要は、自分がどう感じるかを重視しているのです。日本人でも、そういう風に考えられる人が成功しています。
──大城さんから見て、「この人とまた仕事がしたい」と思えるのはどんな人でしょう?
気持ちのいい人です。これは、爽やかな人、などという意味ではなく、うまくいかないときでもうまくいく方法を一緒に考えられる人、という意味です。
気持ちのいい人というのは、「自責の人」でもあります。「他責の人」つまり、うまくいかないときに、自分以外の原因や要素を探すことに躍起になるような人は苦手ですね。
──貴重なお話、どうもありがとうございました。
プロフィール
大城太(おおしろ・だい)
複数の会社経営を行うかたわら、社団法人理事長、医療法人理事、ベンチャー企業への投資を行っているビジネスオーナー。外資系損保会社、医療機器メーカーを経て独立するにあたり、華僑社会で知らない者はいないと言われる大物華僑に師事。日本人で唯一の弟子として「門外不出」の成功術を直伝される。独立後、社長1人アルバイト1人の医療機器販売会社を設立し、初年度より年商1億円を稼ぎ出す。著書は『華僑の起業ノート』(日本実業出版社)など多数。
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