「定量分析」と「定性分析」は、ビジネスにおける意思決定に欠かせない情報分析手法です。この2つの異なるアプローチを1冊にまとめて解説したのが『ビジネスで使いこなす「定量・定性分析」大全』。著者の中村力さんに、本書のねらいについて語っていただきました。
そもそも「定量分析」「定性分析」とは何か
定量分析とは、数字(定量データ)を用いてある事象を客観的に把握し、評価・分析することです。分析結果は意思決定の際の有力な根拠となります。ビジネスの場面では数多くの決断、決定の機会が訪れますが、定量データを有効に活用することで、意思決定やコミュニケーションの質、スピードが向上し、判断のブレを少なくすることができます。
一方、定性分析では数字を用いません。そのぶん評価の基準がやや曖昧になって、意思決定につい主観や偏見が入ってしまいがちです。しかし反面、判断の自由度が増し、大局的なものの見方が可能になります。ビジネスにおける意思決定では、定性分析を使う方が有効な場合も多くあります。
それぞれのメリットとデメリットは?
さて、特に入社したばかりの若手ビジネスパーソンは、意思決定の際、定量分析と定性分析の違いをあまり意識しないで使っていることが多いようです。しかし、両者のメリットとデメリットをきちんと意識して使うことができれば、意思決定の精度が向上するはずです。
それぞれのメリットとデメリットをまとめたのが下の表です。
分析手法 | 特長(メリット) | 短所(デメリット) |
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定量分析 |
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定性分析 |
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この表から分かるのは、一方のデメリットは他方のメリットである、ということです。このことが意味するのは、定量分析のデメリットは定性分析で補うことができ、定性分析のデメリットは定量分析でカバーできる、ということに他なりません。
このように、定量分析と定性分析にはそれぞれ違った特長がありますが、両者を組み合わせることによりお互いの短所を補うことができます。
つまり、両者のいいとこ取りをするのです。そうすることで合理的で精度の高い分析結果が得られ、意思決定や問題解決において大きな成果を期待できます。
本書の特徴
本書は数値データにもとづく定量分析と、論理思考などのフレームワークによる定性分析を1冊で解説した初めての本です。両者を詳しく紹介するなかで、意思決定、問題解決の手法を様々な視点から解説しています。一般的なビジネスパーソンを対象に、豊富な図解とケーススタディでやさしく説明している点も特徴の1つです。
また本書では、定量分析・定性分析をまとめて1冊で紹介するだけでなく、両者の使い分け、組み合わせの効果も具体的な事例でわかりやすく紹介しています。
最後に、本書で扱うおもな分析ツールを紹介しましょう。
【定量分析】のおもなツール
- 意思決定フレームワークとしてのペイオフ表
- キャッシュフローと正味現在価値(NPV)
- 追加利益(限界効率)
- 定量分析に役立つビジネス職種別の指標
- 期待値・分散原理
- 要求水準原理
- デシジョン・ツリーとベイジアン決定理論
- 重み付きスコア
- 機会費用
- 埋没費用
- 平均とばらつき
- リアル・オプション
- リスクとリターン
- ラプラスの原理(等可能性の原理)
- マキシミン原理(悲観的態度を反映した決定原理)
- マキシマックス原理(楽観的態度を反映した決定原理)
- ハービッツの原理(悲観的態度と楽観的態度を含めた一般化原理)
- ゲーム理論
- 相関分析/回帰分析/感度分析
【定性分析】のおもなツール
- MECE
- PEST分析
- 5Forces分析
- SWOT分析
- 7S分析
- VRIO分析
- アンゾフの成長マトリックス
- 6つのパス
- PPM分析
- バリューチェーン分析
- 4つのアクション(ブルーオーシャン戦略)
- 特性要因図
- ゼロベース思考
- SCAMPER
- アイデア手書き/メモ
- マインド・マップ
- 直線的矢印(リンク)
- 拡張フィードバックループ
- バランスフィードバックループ
- 因果ループ図
著者プロフィール
中村 力
公益財団法人 日本数学検定協会 学習数学研究所 上席研究員。北海道大学大学院理学研究科修了。
JFEスチール株式会社で、企業戦略、商品開発、セールスエンジニアなどを担当。業務改善(導入費用対効果)、市場調査、秋葉原量販店への販売促進、需要予測などを定量分析・定性分析で行う。
2004年から数学とビジネスの接点を見出すべく、当協会にて研究開発を続け、定量分析を重要テーマとするビジネス数学検定の立ち上げに全面的に関わった。現在、ビジネス数学は当協会のコア事業のひとつとして位置づけられている。
著書に『ビジネスで使いこなす 入門 定量分析』『ビジネスで使いこなす 入門 定性分析』(以上、日本実業出版社)などがある。