――お話をうかがって、私がもっている介護のイメージが変わりました。そもそも、なぜ介護に関する「負」のイメージが強いのでしょう。
まず第一に、さきほどふれたようにメディアがそういった情報ばかりをとりあげるからです。とにかく壮絶、悲惨といった形容詞をつけたがる。私自身がメディア取材を受け始めた当初も、一言も言っていないのに「介護で大変苦労している工藤さん」というように編集されましたね。
自らの体験をもとに講演会に出させていただき、介護も楽しみながら行なっていますと話していたのに、「収入もなく苦労している」というテロップになっていて、びっくりしました(苦笑)。そういう負のイメージを作られてしまうんです。
そんな状況が嫌になって、ブログの問い合わせフォームに「『壮絶な介護』を記事にされたい場合は、取材目的と合致しない可能性があります」と書くようにしたんです。そうすると、とたんに依頼が少なくなりました。メディアはそういう人を探しているんですよね。しかも男で介護離職しているから、ホームレスにでもなっているんじゃないかみたいな。
そうした不幸話はPVや部数が伸びますからね。その気持ちもわかるのですが、そんな所ばかり取り上げられるのは、介護している人にとっても情報を得る人にとってもよくないなと思います。
もちろんその一方で、介護が大変で追い詰められている人がいるのも本当です。私の講演会に来て、「親が認知症で……」と泣き出す方もいらっしゃいます。
一人で抱え込むことが、一番危険
――そういう方は、何に追い詰められているのでしょうか?
「どう対応したらいいかわからない」というのが一番大きいと思います。認知症の場合、親が同じことを何度も言って、それにカッとなって正論で対応して後悔。そうしたループから抜け出したくて、でもどうすればいいかわからない、という話をよく聞きます。
このような場合、たとえばホワイトボードに親がよく口にする疑問や不安への答えを書いておき、いつでも見える場所に置いておくという方法があります。そうした、「知っていれば役に立つ」知識が、情報としてなかなか入ってこないことも、介護をつらくしてしまう原因です。
知識があるのとないのとでは、心の余裕がまったく違ってきます。著書の中では、NPOや自治体などが運営している「介護カフェ」を活用し、介護仲間や相談相手をつくってくださいと書きました。介護カフェは、介護している人が悩みを相談しに行く場所で、息抜きの場になります。
書籍などで、介護について1人で勉強を始めようと思っても、なかなか難しいです。文字だけ追っても、自分ごとになれないんですよね。
でも、人を通してだと、広い視野でさまざまな情報を交換できますし、自分の中にたまっていた不安などを吐き出すことができます。何かあったときに、「あの人に聞いてみよう」と思い浮かぶ人が1人いるだけで心の余裕が全然違うんですよ。
――なるほど。現役世代のビジネスパーソンの場合、とくに「介護」と「仕事」の両立が難しく、一人で抱え込んでしまいがちですよね。どうすることが正解だと思われますか?
最初はやはり会社に相談して、介護休業制度を活用してほしいですね。
介護離職する人の2人に1人は、誰にも相談せずに辞めちゃうんですよ。そこには、介護を始めると言った瞬間に昇進がなくなってしまうとか、同僚が迷惑そうな顔をするなど、色々な理由があるのですが……。上司や友人に相談することで、孤独な介護への道を回避できる可能性が高くなります。
介護休業を利用して、自治体の介護保険サービスへの申し込みやヘルパーさんの手配など、仕事に戻るための介護体制を整えることが、両立のキモになります。
また、介護休業法では「取得できる93日間の休暇は3分割できる」となっているので、最初の1か月を準備にあてて、状態が変わればまた1か月というように取得してもいいと思います。施設に入れるといってもお金の面や、職員さんとの相性があるので、その期間中に色々と情報を収集することが大切です。
本来なら、そうした「介護が必要になったらどうする?」という話を、親御さんに前もって聞いておくのが一番いいのですが、ほとんどの人が準備のないまま介護生活に突入してしまいますね……。たとえば、エンディングノートを使って、いざというときの意思統一をしておくことも、介護と仕事の両立に欠かせないものです。
――――なんとなく「介護」に対して不安を感じている、そのために何をすればいいのか迷っている読者に向けてメッセージをお願いいたします。
「介護は突然やってくる!」と怖がらせるつもりはないのですが、近い未来と考えておいたほうがいいです。
その「もしも」のために、今日から「介護アンテナ」を立てることを意識してみてください。介護に対してちょっとだけアンテナ(=興味)をもつだけで、入ってくる情報量が変わるはずです。電車に乗っていたら、介護に関する広告が目に入ってきたり、なにげなく見ていたテレビの特集に気づいたり、その情報の積み重ねが、いずれ来る本番のための武器になります。
年末年始に実家の親御さんと久しぶりに会うと、「あれ? こんなに年をとっていたかな」と感じることがあるはずです。その気づきを放置せず、ぜひお互いに色々なことを話して準備してください。
『ムリなくできる親の介護』には、介護をする子どもさんはもちろん、介護される本人も知っているといいことを、4コママンガを交えつつ紹介していますので、親子で読んでいただるとお役に立てるかと思います。
著者プロフィール
工藤 広伸(くどう ひろのぶ)
介護作家・ブロガー。祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護2)のW遠距離介護からスタート。祖母の死後、悪性リンパ腫の父(76歳・要介護5)を在宅介護で看取る。2度の介護離職を経験、成年後見人経験者、認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。現在も東京と岩手を年間約20往復しながら、しれっと遠距離介護中。
ブログ「40歳からの遠距離介護」運営、Webサイト「介護ポストセブン」(小学館)に連載中。著書に『医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得』『医者は知らない!認知症介護で倒れないための55の心得(いずれも廣済堂出版)、『がんばりすぎずにしれっと認知症介護』(新日本出版社)がある。