印象に残るCMで一躍有名となり、業績の急拡大を続けていたRIZAPグループ(以下、RIZAP)。しかし、同社が2019年3月期中間決算で大幅な減益予想を発表したことで、市場に衝撃が走りました。
同社の急成長を支えてきた原動力と頓挫の原因を、ファイナンスの視点で読み解くとどうなるのか。『武器としての会計ファイナンス』の著者・矢部謙介さんに解説していただきました。
RIZAPはなぜ業績予想を下方修正したのか?
2018年11月14日、RIZAPは業績予想の下方修正を発表しました。それまで約159億円の黒字予想としていた連結最終損益を、70億円の赤字になる見込みだとしたのです。それまで、500円前後で推移していたRIZAPの株価はその発表以降急落し、2018年11月19日の終値では255円と、それまでの半値近い水準まで下がってしまいました。
そもそも、RIZAPの本業は主にダイエットを目的としたフィットネスジム事業であり、この事業自体の業績は堅調だと伝えられています。今回RIZAPが業績の下方修正を行なった理由は、RIZAPが近年相次いで実施してきたM&Aにありました。そこで、RIZAPでは新規のM&Aを原則として凍結すると発表したのです。
RIZAPのM&A投資は何が問題だったのか?
以下の表は、RIZAPがここ5年間の間にM&Aを行なってきた主な企業をまとめたものです。
(3月期) | 主な買収対象企業 |
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2014年 | イデアインターナショナル、 ゲオディノス(現SDエンターテイメント) |
2015年 | 夢展望 |
2016年 | タツミプランニング |
2017年 | パスポート(現HAPiNS)、ジーンズメイト、ぱど マルコ(現MRKホールディングス) |
2018年 | 堀田丸正、サンケイリビング新聞社、 ワンダーコーポレーション |
RIZAPのM&Aの特徴は、業績不振企業を中心に買収してきた点にあります。通常、企業を買収すると、買収価格が(時価ベースでの)純資産を上回った差額を「のれん」として連結貸借対照表(B/S)の資産に計上するのですが、大きなのれんを計上しなければならないような企業の買収は基本的に行なわない、というのがRIZAPのM&Aの基本姿勢であるとされていました。
しかしながら、こうして買収した会社の立て直しが思うように進まず、業績上の重石となったことが下方修正の要因の1つとなりました。
RIZAPが出した2019年3月期の第二四半期決算短信においても、ジーンズメイトや夢展望の経営再建は進みつつあるものの、ワンダーコーポレーション、サンケイリビング新聞社、ぱど、タツミプランニングなど、近年買収した企業の経営再建が当初の予定よりも遅れていると述べられています。こうした企業の業績が、RIZAP全体の業績を押し下げる結果となりました。
こうした状況を受けて、RIZAPは新規のM&Aを原則凍結すると発表しましたが、実はこのM&A凍結自体も業績予想の下方修正に直結しています。
上で述べたように、RIZAPは業績不振企業を好んで買収してきました。これらの買収の多くで、(時価ベースでの)純資産が買収価格を上回っていたため、「負ののれん」が発生していたのです。
RIZAPが採用する国際会計基準(IFRS)では、負ののれんが発生した場合、その期に「負ののれん発生益」として利益を計上することとされています。いわば、会社を「割安」に買収した分、利益をかさ上げできるメカニズムになっていたのです。
以下のグラフは、2014年3月期から2018年3月期までのRIZAPの税引前当期利益(日本の会計基準を採用していた2015年3月期以前は税金等調整前当期純利益)、負ののれん発生益、営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)をまとめたものです。
このグラフから、2018年3月期のRIZAPにおける税引前当期利益約120億円のうち、負ののれん発生益が約88億円を占めていることがわかります。実に税引前当期利益の70%以上が、負ののれん発生益で構成されていたのです。