親は誰しも「子どもにはのびのびと育ってほしい」と願うものです。そうした望みを叶えるヒントとなる1冊が『世界に通用する「個性」の育て方』。キリスト教の聖書を元にした欧米の教育観を日本と対比させながら、子どもの「生きる力」を育む方法がわかりやすく解説されています。
著者である後藤哲哉氏は、牧師として聖書の教えを説くとともに、子育てセミナーの講師としても多くの親の悩みに向き合ってきた人物。後藤氏は「聖書にある“自己肯定感”が子育てのキーになる」といいます。その言葉にはどのような意味が込められているのか、ご本人にお伺いしました――。
“自肯定感”がすべてに影響する
「自己肯定感」という言葉を、最近よく耳にします。簡単に言い換えると「自分はこれでOK」と「自分自身を尊重し、存在を肯定」する感情のことです。
子育てに限らず、大人の人間関係や仕事おいても、この感情のあるなしが生活に影響します。自己肯定感が低いと、「生きづらさ」を感じ毎日の生活が難しくなってしまうのです。
たとえば、「私は生きている価値がない人間だ」と思ってる人が、精力的に仕事に取り組むことができるでしょうか? 自分に自信のない人に、同僚や部下がついてくるでしょうか?
もちろん形のうえで仕事をすることはできますが、成功につなげられるかといえば、なかなか難しいはずです。なぜなら、自身が仕事を楽しいと思っていませんし、周りを巻き込む魅力にも欠けているからです。
自己肯定感の低い人は、単に心の内側のモチベーションが低いだけではなく、外見的にも自信のなさが表れます。具体的には表情や眼力、気だるさ、声のトーン、言葉の選択などに表れ、「この人には魅力を感じない」と他人から判断されてしまいます。無理に笑顔をつくり、言葉遣いに気をつけてみても、根本的な解決には至りません。
子育て中の親御さんも、まずは自分が自己肯定感を持っているかどうか、考えてみてください。
だれしも、かけがえのない価値がある
あなたは自分のことをどれくらい価値のある人間だと思っていますか? ここで、【自分テスト】をやってみましょう。以下の問いにいくつ当てはまるでしょうか?
問2. 人間関係がすべて良好だ。
問3. 老いや身体の衰えを感じない。
問4. 家族・親戚みんな大好きだ。
問5. 着実に貯金ができている。
問6. 年に1回は海外旅行へ行って、リフレッシュしている。
問7. 夢はすべて叶えた。
問8. ローンや借金がないし、これからも利用することはない。
問9. すこぶる健康だ。
問10. 他人のことをうらやましいと思うことはなく、いつも気持ちはハッピーだ。
これらは、私がいつも自問している事柄です。これらの答えがNoであればあるほど、自己肯定感は低いと考えています。……ちなみに私はこの10問の答えは、ほとんどがNoです。「自己肯定感がほぼゼロってこと?」、そのような声が聞こえてきそうです。
では、私が自分自身に点数をつけるとしたら何点かというと、……100点です! 「どこから来るんだ、その自信は!」と叱られそうですが、これは、私の言動や気持ちを根拠にした採点ではありません。
聖書は、昔も今もこれからも変わることなく、「あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している」と私たちに語りかけます。この基準に照らし合わせると、私たちは何ができる・できないに関係なく、そのままで十分に価値があって、愛されるべき存在なのです。
私は、この聖書の価値基準に則って自分の点数をつけたのです。だから、「自分はこれでOK」といえるのです。そうした意味で、私は自己肯定感を高く持つことができています。
もちろん人間に点数など付けられませんが、私が言いたいのは、私たちが自分で決めた価値基準をクリアできればOK、できなければ人生落第と思ってしまうことに大きな危険があるということです。
さらに「自分はこれでOK」と思えない大人が親になると、子どもに「何かができれば合格、できなければ不合格」という価値観が引き継がれてしまいます。それが続くと自己肯定感が低くなり、心が安定しませんし、何をするにも自信がなく意欲を失った子供になってしまうことも……。
「親の価値観」が子どもに与える影響は……
ここで私の生まれ育った家庭環境を申しますと、私の母は教育者で、自宅で学習塾、書道教室、絵画教室、英会話を展開するやり手の経営者でした。ピーク時には、100人以上の生徒がいました。
そうした家庭環境に育った私に与えられたハードルはとても高いもので、火曜日を除いて母の教室や外部の習い事への参加を義務付けられ、常にどこでも、優秀な成績を求められました。
なんとかクリアできたときは、「自分はOK」とホッとしたものですが、うまくいかないと、「自分はなんてダメなんだ」と思っていました。
幼少期から思春期にかけての私は、物事がうまく進んでいたときであっても、達成感や幸福感よりもいつか起こしてしまうであろう失敗に対する心配や恐怖心が勝っているような子どもでした。
これは、どこの家庭でも起こり得ることです。親から良い成績をとることが至上命題だと植えつけられている子どもは、満点がとれなかったとき、自宅に帰ることさえ怯えてしまいます。
親の物差しや基準は子どもの自己評価に大きな影響を与えるのです。
でも、その自己評価は正しいのでしょうか?
いや、自分でつける自分の採点は必ずしも正しくないのです。その採点は、あなたの育った背景によって決められます。それは相対的だし、好不調によって変動もするでしょう。ころころ変動するジャッジなんて正しいはずがありません。
親か勝手な価値基準を押しつけるのではなく、「あなたがそこにいるから、私はもうそれだけで幸せ」と伝えることができたとき、子どもは自由に生き生きと育ちます。
そんな家庭環境に育った子どもは、どんな失敗をしたとしても、テストが赤点だったとしても、自分の可能性を疑わず、めげずに成長することができるのです。
ですから、子どもにのびのびと、たくましく成長してもらうために、まず親が聖書にあるような絶対的な「自己肯定感」を持つ必要があります。親こそが、この絶対動くことのない自分の価値をしっかりと感じてほしいのです。
親が「自己肯定感」を持てなければ、子どもが「自分はこのままでOK」だと思えることはありません。
子どもの心が不安定になり、自分のことがつまらない人間に思えてしまうとき、なんらかのサインが発せられています。そのサインを親はいち早く見抜き、その対処の仕方を学び、子どもに向き合ってください。手遅れになることはありません。
著者プロフィール
後藤 哲哉(ごとう てつや)
1972年、埼玉県入間市生まれ。東京基督教大学神学部卒。西南学院大学神学部卒。クロスロードチャーチ岡山の牧師。心理カウンセラー。子育てセミナー講師。24歳という当時、ほぼ最年少で牧師に就任。これまで延べ58,000人以上に聖書の教えを説いている。心理学も用いた独自のカウンセリング法で、悩める人を正しい道へ導く牧師として多くの人々から支持を得ている。また、大手重症児童医療センターや有名教育機関や自治体などで多数の講演を行っている。