受託開発の元凶は「納品」にあった
ソフトウェアの受託開発は、そこで働くプログラマーやシステムエンジニアの1人×1か月の働きである「人月(にんげつ)」という単位によって見積もられます。
詳しくは本書をお読みいただきたいのですが、そもそもソフトウェアというものは、最初の見積りや設計(これを「要件定義」といいます)通りにはつくれないもの。それなのに、人月ですから、投入される人員と期間、つまり納期が決められています。
このことが、エンジニアの悲惨な労働環境「デスマーチ」や、納期後のトラブルなどのさまざまな問題を引き起こしてきました。
そこで、著者の倉貫氏は考えました。「いっそのこと『納品』をなくしてしまおう」と。
「納品のない受託開発」の衝撃度
これがどれほど衝撃的なことか、ひょっとすると文系ビジネスマンはもうひとつピンと来ないかもしれません。逆に、エンジニアの人は、すぐにその意味の大きさを理解はするものの、「そんなこと、できるはずがない」と否定的に捉える人が多いのです。
しかし、倉貫氏はそれを実行しました。「納品のない受託開発」という、“コロンブスの卵”のような画期的なビジネスモデルをつくり、そしてそれを現実の企業経営の場において実践しているのです。
本書『「納品」をなくせばうまくいく』は、ソフトウェアの開発手法や企業経営の理論を書いたものではありません。著者が自ら工夫を重ね、難題を解決しながら、顧客に対してソフトウェアを提供し、そして企業経営を継続することで、自らのビジョンを実現し、社会を変えていく──そのありのままの事実を、著者の哲学や理念を下敷きにして熱く綴ったものです。
だからこそ、その内容は非常に大きな説得力をもって、読み手にストレートに伝わってくるのです。
夢の実現に向けて
本書の「あとがき」に、著者が掲げる3つのビジョンが記されています。
・顧客企業の真のパートナーとして価値を提供し続ける
・プログラマを一生の仕事にする、高みを目指し続ける
・いつまでも、いつからでも夢に挑戦できる社会にする
この2番目のビジョンは、IT業界で働くエンジニアの生き方を変え、彼らがプログラマーを一生の仕事として誇りをもって働けるようにしたい、という願いが込められています。
この夢の実現に向けて挑戦し続ける倉貫氏の姿が、多くのエンジニアの方々から共感を集め、それがITエンジニア本大賞受賞という栄誉につながったのです。