平均寿命が伸びて「人生100年時代」と呼ばれるようになった昨今、病気などによって親より子が先立つこともさほど珍しくはありません。先立った子が既に家族を持っていた場合、子の配偶者と姻族との間でさまざまな問題が発生することがあります。
一般的に男性よりも女性の方が病気に強いため、のこされた妻が「臨終の夫に義父母のことを託され、それが後々悩みの種やトラブルになる」ケースがとくに多く、それを解決する「姻族関係の終了に関する手続き」が注目を集めるようになりました。メディアでも「死後離婚」というキーワードを用いた特集が、盛んに組まれています。
そこで今回は、離婚や男女問題などを中心に活躍している二人の弁護士が著した『夫の死後、お墓・義父母の問題をスッキリさせる本』(大﨑美生・佐藤みのり 共著)から、のこされた妻と義父母との間のトラブルに関する2つのQ&Aを見てみましょう。
子どもの夢と義父の命、お金の使い道としてどっちを優先すべき?
質問:子どもにお金がかかる。義父母の扶養より優先してよい?
2年前に夫を交通事故で亡くし、私はいま息子2人と義父母の計5人で暮らしています。従来から義母は病気がちで医療費がかさんでいましたが、この2年間は夫がのこしてくれた遺産もあって、なんとか生活してきました。
来年、長男はついに高校受験。サッカーが得意な長男は、サッカーの名門校への進学を希望しています。しかし、その高校は私立高校で高額な学費が悩みの種でした。そんななか、75歳になる義父ががんにかかっていることが判明し、先進医療での治療を勧められました。その治療費は高額になるようです。
夫はひとりっこだったので、私のほかに義父母の面倒をみられる人はいません。私としても最期まで2人の面倒をみたいのですが、公的援助や奨学金を受けても私のパート収入では長男の学費を負担したうえで、義父の高額な医療費を負担するのはむずかしそうです。命にかかわる問題ですし、優先させるべきは義父の治療費なのでしょうか。
回答:義父の高額な医療費より、子どもの学費を優先させても問題ありません。公的援助や奨学金の利用も検討しましょう。
子育てが大変でも、義父母を扶養しなければならない?
相談者が、自分の子である長男や次男に対して扶養義務を負うのは当然のことです(民法877条1項)。一方、義父母に対して扶養義務を負うのは、例外的な場合。家庭裁判所が特別の事情ありと判断し、審判で扶養義務を認めない限り、扶養義務を負いません。
ただし、相談者の夫はひとりっこで、ほかに義父母の面倒をみられる人がいないとのこと。家庭裁判所の審判になったら、扶養義務を認められる可能性があるでしょう。
扶養に優先順位をつけていい?
では、義父母への扶養義務が認められた場合、子どもたちと義父母に対する扶養義務の優先順位は、法律上どうなっているのでしょうか。親が未成熟子(身体的・精神的・経済的に成熟途中であり、就労が期待できず、扶養を受ける必要がある子)に対して負う扶養義務は「生活保持義務」といわれ、自分と同レベルの生活をさせる必要があります。
扶養してあげるべき人が複数人いる場合、そのなかに「生活保持義務者」がいればこの者から扶養するのが原則になります。ただし、たとえば高校生の子と病気で寝たきりの母……などとなってくると、どちらをどの程度扶養すべきか、原則だけでは判断がつかなくなってきます。
高校生にもなれば自分でアルバイトをすることも可能で、ある程度の自立を期待できます。一方、寝たきりの母には公的援助が期待できるかもしれません。そうした可能性も含め、総合的に考慮して個別具体的に扶養義務の優先順位を判断することになります。
相談者のケースでは、中学3年生の長男が希望する私立高校進学と、義父の高額な先進医療によるがん治療のどちらを優先させるべきか悩んでいますが、法的には原則どおり、長男への扶養を優先させてよいのではないかと思います。
相談者の長男の場合、サッカーの名門校ということであり、進学後アルバイトなどをしながら勉強とサッカーに励むのはむずかしい面もあるでしょう。義父の高額な医療費を考えなければ、相談者の資力で長男を希望の高校に入れさせることが可能なのであれば、相談者が高校生になる長男の学費を親の義務と考えて負担することは当然です。
一方、義父母に対して、生きていくのに必要な最低限の食費や医療費も負担しないとなると問題ですが、高額な先進医療を受けさせる義務まではないでしょう。そもそも、義父母に対して負う扶養義務は「生活扶助義務」であり、最低限の生活を維持させることができればそれで足りるのです。
医療費についてはいろいろな公的援助が、学費についてもさまざまな奨学金が用意されています。さらに情報収集して、利用できるものは利用することが大切です。
夫が亡くなったので、夫名義の家から義父母を追い出したい!
質問:夫名義の家に義父母も一緒に居住。夫が亡くなったので義父母を追い出したい!
7か月前に夫を交通事故で亡くした者です。私と夫は共働きで、2人でお金を出し合い、念願のマイホームを購入したのが5年前。義父母は持ち家ではなかったため、高齢の2人を支えるため、夫、私、一人息子、義父母の5人で同居しました。
生活はラクではなかったため、その後も共働きは継続。一方で、義父母は面倒をみてもらうのは当然という態度でした。私はそれが気に食わず、なんとなく険悪に。そんな関係が続いて嫌気がさしていたとき、夫が急死。遺言はなく、家は私と息子が相続しました。
夫には悪いですが、亡くなってしまった以上、私は義父母に一刻も早くこの家から出て行ってほしいと思っています。夫亡きいま、義父母と一緒に暮らす必要がありませんし、苦労して購入したこの家に、これ以上居座ってほしくないのです。
義父母を家から追い出すことはできないのでしょうか。義父母とは金輪際かかわりたくないので、すでに「姻族関係終了届」を提出しています。
回答:家が自分たちの名義であるとか、義父母の態度が気に入らないといった程度では、義父母を家から追い出すのはむずかしいと思います。どうしても家を出て行ってもらいたいなら、義父母にまとまった金額を支払うなど、義父母の納得する条件が必要になるでしょう。
義父母を追い出すことはおそらく不可能
相談者の夫は遺言を書かずに亡くなっているので、夫名義の家は法律のルールに従って相続されます。子どもがいる場合、相続人になるのは配偶者である妻と子どもなので、義父母は相続人になれません。そのため、夫名義の家は、遺産分割協議を終えていないうちは相談者と子どもの共有になり、遺産分割協議により誰のものになるかが確定されます。いずれにせよ、義父母がこの家の権利を持つことはありません。
しかし、義父母には財産があまりなく、経済的に支えるために同居を始めたということ。同居を始めて5年が経過しており、いますぐ家を出ていかなければならなくなると高齢の義父母にとってはとても大変でしょう。
そのため、仮に相談者が裁判を起こし義父母に家から出て行ってもらうよう求めたとしても、裁判官は義父母にとって酷な結論にならないよう理屈を作って、そのまま住んでいられるように判断する可能性が高いと思われます。たとえば「義父母との間に居住を認める暗黙の合意がなされている」とか「嫁が退去を求めるのは、権利の濫用にあたる」といった具合です。
義父母の行動が常軌を逸していれば、追い出せることも
ただし、こうした理屈は公平性を保つためのもの。そのため、義父母自ら同居を困難にするような振る舞いをしていると認められれば、嫁と義父母の公平の観点から同居の解消が認められる可能性もあります。ただ、そのためには義父母の行動が「誰の目から見てもひどいと思われる」など、程度を逸している必要があるでしょう。
そのため、相談者のケースのような「“面倒をみてもらうのが当然”といった態度をとっており、”なんとなく険悪“な関係になっていた程度」では、義父母を追い出すのはむずかしいのではないかと思います。このようなケースでは、法的な権利を持ち出すよりも、まずは当事者間でよく話し合い、納得のいく結論を出すことが大切です。
確かに、「姻族関係終了届」を提出した相談者には義父母を扶養する義務はありませんが、家を出て行ってもらうことを最優先とするならば、月々一定額の生活費や住居費を支払うか、まとまった額の和解金を支払うことで出ていくことに納得してもらう、といった方法を検討する必要があるでしょう。