「会計の知識はビジネスパーソンの必須スキル」とよく言われますが、実際に学んでみても
- 経理部に所属しているわけでもないのに、なんで自分はこれを学ぶ必要があるのか
- 「会計を学ぶならとりあえず簿記だろう」と思い、基本書を読んでみたがどう役立つのかがわからない
と感じ、挫折する人が後を絶ちません。その原因と対策について、税理士の戸村涼子さんは著書のなかで下記のように述べています。
「会計」がとっつきにくい3大要因(「学ぶ目的がわからない」「全体像がわからない」「専門用語が頭に入ってこない」)を克服するために、私は会計にまつわる疑問を「パズルを解くような感覚」で理解していくことをすすめています。
では、「パズルを解くような感覚」とはどういうことなのでしょうか? 私なりの定義では、各項目を会計の「目的」「全体像」「つながり」から理解することを意味します。
(『会計と決算書がパズルを解くようにわかる本』戸村涼子 著、P.19より)
本記事では、戸村さんの著書『会計と決算書がパズルを解くようにわかる本』(以下、本書)を基として、会計に苦手意識がある人や一度勉強してみたものの挫折した人向けに、会計の目的と周辺の全体像、決算書同士のつながりなど読み方の基礎を解説します。
会社の数字と、会計の位置づけおよび目的
一般的に「会計」と呼ばれるものの知識は、実は会社の数字を把握するための一部分でしかありません。下図全体を会社の数字(およびその流れ)とすると、左下の部分が「会計の知識」に該当し、そこからさらに財務会計と管理会計に分かれています。
まずは、個々の要素についてみてみましょう
簿記(目的:会社の数字の集大成である「決算書」をつくる)
簿記は、会社の数字の集大成である決算書をつくるスキルのことです。作成にあたっては、会社の取引を一つひとつ仕訳(取引を文字と数字で表現したもの)し、一定のルールに従って記載していきます。ちなみに、そのルールは膨大ですが、日商簿記検定3級程度で、ある程度必要な知識を身につけることができます。
決算書(目的:会社の儲けや資産などの状態を表す)
ここまで何回か使っていますが、決算書とは正確には「財務諸表」と呼ばれるものを日常的な言葉遣いで示したものであり、一定期間内における会社の成績・状態を示したものです。日本の会計基準では
- 会社の稼ぐ力を表す「損益計算書(P/L、Profit and Loss statement)」
- 蓄える力を表す「貸借対照表(B/S、Balance Sheet)」
- お金(現預金)を回す力を表す「キャッシュフロー計算書(C/F、Cash Flow statement)」
- 純資産の変動状況を示す「株主資本等変動計算書(S/S、Statements of Shareholders’ Equity)」
が含まれており、とりわけ重要な「損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書」の3つを総称して「財務三表」とも呼ぶこともあります。これらを「読む」とは、会社の儲けや資産の状態を正確に把握し、活用のための分析ができることを意味します。
財務会計(目的:ステークホルダーや税務署などに会社の状態を報告する)
財務会計とは、法律(会社法や金融商品取引法など)に従って、株主や債権者といった利害関係者(ステークホルダー)に会社の数字(状態)を報告することを目的としたもので、決算短信や有価証券報告書の作成が該当します。また、税金を法律に従って適正に計算し、税務署に報告するスキルもこれに含まれます。
管理会計(目的:会社の数字を事業に活かす)
管理会計は、決算書に表された会社の状態に基づいて事業計画を立てたり意思決定を行うなど、「数字を活用すること」を目的としたスキルです。管理会計を用いた具体的なアクションとしては、部門ごとの儲けに基づいた事業計画書の作成や、日々の意思決定などが該当します。
財務(目的:企業価値を高めていくため、資金を調達・運用する)
財務とは、会社の数字のうち「資金」の部分に特化した分野を指し示します。具体的には、銀行からの借り入れや増資など各種手段を用いて資金を調達し、企業価値を高めるためにそれらを投資・運用するといった行為が該当します。言い換えれば、会計は「会社の数字の報告・活用」に重きが置かれていたのに対し、財務は「会社としての評価」にウェイトが置かれています。
結局、自分は何を学べばいいのか
ここまで会計とその周辺を含めた各要素について見てきましたが、自分の立ち位置(経営者か否か、経理業務に関係しているか否か)によって「知っておくべき要素/知っているのが望ましいが、必ずしも知らなくていい要素」が分かれます。