では中国の王朝で、純粋な中国人、漢人による王朝はどれだけあるのかといいますと、中世以降では明が唯一です。明を建国した朱元璋、彼は確かに漢人です。それ以外は全部漢人ではないんです。宋の趙氏はトルコ人の沙陀(さた)族、元のフビライはご存じの通りモンゴル人です。それから清のヌルハチ、愛新覚羅(あいしんかくら)氏、満州の女真(じょしん)族など。

このように考えると、中国は漢人の国、中国人の国ではなく、有史の大半は他の民族によって支配されてきた国家であるといっても過言ではないわけです。その多民族国家の中で混血が進み、もはや純粋な漢人というのは存在しません。これはウイグル人もチベット人も同じです。その結果、今日のような多民族国家・中国ができあがってくるわけなんですね。

中国皇帝の最大の「政治的課題」とは?

さて、こういった観点で今日の中国政府を見てみると、彼らがなぜ、民族独立運動に対して非常に神経を尖らせているのかがわかると思うんですよね。中国の55の民族が口々に勝手なことをいい始めたら、国家として成立しないんです。

その国家を維持するために国内の警備に国防費以上の莫大なお金をかけている。それだけの金をかけるくらいなら独立を認めて貿易したほうがいいんじゃないか。資源が必要ならウイグル人の独立を認めて貿易すればいい、そのほうがコストを抑えられる。そういう意見もあります。

しかし、中国が非常に大事にしている国家としてのテーゼがそれを許しません。歴代の中国人の皇帝が一番大事にしてきた政治的課題とは一体何か。それは、富の再分配なんです。

いま、中国にはとんでもない金持ちがいるのをご存知でしょう。たとえば上海には、超豪華な高層マンションに住む大富豪がたくさんいますが、日本の金持ちとは比較にならないほどの金持ちですよ。桁が違うんですね。

一方で大変な貧富の格差があるわけですが、それでも、いまの習近平政権は格差を是正しようとがんばっています。そのおかげで、格差をいまのレベルになんとか抑えている。この抑えがはずれてしまうと、もっともっと格差が開きます。現状どころじゃない、とんでもない格差になります。

富の再分配をいかに機能させるか。これが中国の支配者の、いちばん重要な役割なんです。

ウイグル人の土地には、先ほどいったように資源がたくさんあります。彼らの独立を認めてしまうと、この資源の利権を持っている人たちが大金を稼ぐことになる。そうすると、ウイグル族の中でも超大金持ちと超貧乏人との格差が大きく開くことになります。1%の大金持ちと、99%の貧乏人に分断されるんです。貧乏な人はもっともっと貧乏になってしまう。

これを防いでいるのが中国共産党なんです。共産主義のもと富を公正、公平に分配する役割を担っている。ウイグル人の、資源の利権を持っている人たちに対して税金をたくさんかけて、それを貧しい人に再分配する。このように中国共産党政権は富の再分配の機能を多民族支配のツールとしてうまく利用しているんです。

いずれにしても、少数民族に対する弾圧や人権侵害は許されるものではなく、そのことを国際社会が一致して中国に対し抗議していくことが必要です。

(前編終わり。後編「朝鮮について」は5月16日公開予定)