社員20名のベンチャー企業を皮切りに、ミスミやリクルートでキャリアを積み、現在は人材育成や組織活性化を中心に数々の大手企業をコンサルティングしている中村一浩さんは、自らの経験から、ビジネスリーダーの “理想像”に行き着いたそうです。それは、「メンバーの言動に対し、すぐに評価を下さない」ということ。

リーダーの役割は部下を指導し、評価することのはずです。中村さんの真意はどこにあるのでしょうか。著書『なぜ、「すぐに決めない」リーダーが結果を出し続けるのか』の第1章「メンバーのパフォーマンスを最大化する」から、その一端をピックアップしてみます。

結果を出すリーダーに必要な3原則

ビジネスリーダーの日常は多忙を極めます。プレイングマネジャーとして実績をあげつつ部下をフォローし、社内外でのミーティングや資料作りに追われ、部下が帰ったあとにひとりで残務をこなす。先のことを考える余裕がなく、目の前の仕事を片付けるだけで精一杯になりがちです。

こういう状態が続くと、リーダーだけではなく、チームのパフォーマンスも低下していきます。できればそれぞれのメンバーが持てる力を十分発揮して、自律的に動けるチームをつくりたいもの。中村一浩さんは著書のなかで、そのために必要な原則を3つあげています。

・メンバーをよく知ること
・チームの信頼関係を築くこと
・リーダーは常に自然体であること

言葉だけ見ると決して目新しいものではありません。しかし、ビジネスリーダーとして多くの経験を持ち、人材育成や組織活性についての研究もしてきた中村さんのリーダー論は通り一遍のものではありません。ここでは最初の原則、「メンバーをよく知ること」のエッセンスを紹介しましょう。

他者を知ろうとする前に自分を知ること

リーダーは、チームのメンバーのことをよく知らなければ務まりません。当然のようにメンバーと会話し、観察して、理解を深めようとします。

しかし、その前にやっておかなければならないことがある、と中村さんは指摘します。

それは、まずは自分自身に関心を向けて、自分を知ることです。なぜなら、人は思い込みや価値観など、「自分のメガネ」を通して世の中を見ているから。そのメガネの存在に無自覚でいると、世の中や他人のことをありのままに受け入れることができない、というのです。

それをリーダーとメンバーの関係にあてはめると、リーダーは「自分のメガネ」を通してしかメンバーを見ることができない、ということになります。それはつまり、メンバーの「ありのまま」を見ていない、ということです。

中村さんは、自分のメガネを知るために次のような方法を提案しています。

今から、ある人の顔を思い浮かべてください。
どんな人かというと、「嫌い・苦手な人」と「好き・心地よい人」です。誰が思い浮かびますか。頭の中に思い浮かべたら、その人のどんなところが「嫌い」「好き」かを書き出してみてください。頭で想像するだけでは具体的になりづらいので、文字として書き出すことをお勧めします。
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「嫌い・苦手な人」の顔を思い浮かべながら、たとえば「口ばかりで行動しない」「知ったかぶりをする」「傲慢で他人を見下す」といった特徴を書き出していきます。

そうすると、「自分の感情は、他人のこういう言動に対して、“嫌い・苦手”と反応するんだ」ということが具体的にわかります。