ヤマザクラ自体は単一の種名として存在しますが、山地などに自生するカスミザクラやオオヤマザクラなど他の品種も含めた総称としてその名が使われることも多くあります。また、野生種同士で交配することもあるので雑種も多く、同じ地域に生えていても開花時期が異なったりするほか、ソメイヨシノと違って総じて長命なのが特徴です。
花の咲き方も「ソメイヨシノはまず花が咲き、その後葉がひらく」のに対し、ヤマザクラは花と葉が同時にひらくなど、異なる部分も多々あります。
シダレザクラ(枝垂桜)
枝が柔らかく垂れ、滝のように見える姿が特徴的で「糸桜」と呼ばれることもあります。種としてはエドヒガンの系統が多く、ハクシダレ(白色)やウスベニシダレ(淡紅色)、ヤエベニシダレ(紅色八重、別名エンドウシダレ)などと分類されます。
桜の利用法と桜餅
桜は鑑賞するだけではなく、木材として調度品や樺細工(サクラの樹皮を使った木工品)に加工されるのをはじめ、染物の染料として使われるなど、様々な用途があります。代表的なものとしては
- 皮:オウヒ(桜皮)と呼ばれる漢方薬の材料となるほか、抽出液にも薬効成分がある
- 葉:塩漬けにして桜餅の包みに使う
- 花:塩漬けを桜湯にして飲んだり、あんぱんのアクセントとして用いられる
などがあります。ところで、桜餅には下図のような見た目の異なる種類があるのを知っている方も多いでしょう。
関東では小麦粉で作ったクレープのような皮で餡子を包む「長命寺」と呼ばれるものが、関西では道明寺粉と呼ばれている、一度蒸したもち米を乾燥し粗く引いた粉で餡子を包んだ「道明寺」と呼ばれるタイプが食べられています。このうち、長命寺桜餅の始まりについては以下のようなエピソードがあります。
最初に考案したのが山本新六という人で、元禄4年(1691年)に銚子から江戸に出て長命寺の門番となりました。この向島は第4代将軍徳川家綱が常陸の桜川から移植して桜の名所となっており、第8代将軍徳川吉宗の命でさらにサクラが植えられました。
新六は毎日その葉を見て何かに利用できないかと考えて、その香りから塩漬けを思いたち、あんこ餅を包んで参拝客にもてなしたのが桜餅の始まりといわれています。
(『桜の雑学事典』井筒清次著 P.39より)
シンボルとしての桜
日本を含め、世界の各国はその国民に最も愛好され象徴するものとして「国花(こっか)」を定めています。日本では皇室を象徴する「菊」と一緒に「桜」も国花と定められています。
また、都道府県や市区町村単位で「県花」「市花」などを定めるところもあり、桜にちなんだ県花を定めているのは「東京都(ソメイヨシノ)・山梨県(フジザクラ)・京都府(シダレザクラ)・奈良県(ヤエザクラ)」があります。
東京23区内だと「桜の名所」として名高い飛鳥山公園がある北区や、上野恩賜公園のある台東区をはじめとするいくつかの自治体が桜を「区の花」として定めており、北区は桜をモチーフとして、区章とは別のコミュニケーションマークも定めています。
以上、桜にまつわる雑学をいくつかご紹介しました。早いところでは3月中旬から、東北や北海道では5月が見ごろになるなど、地域によって開花時期は異なるため開花に合わせて旅行を桜を楽しむ人も多いと思いますが、こうした雑学を知っていると、また見方も変わってくるかもしれません。