「文章書くのが大の苦手。でも仕事で書かなきゃいけない機会が増えちゃってゲンナリなんですけど……」という人のための新刊『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』(山口拓朗著)。文章アレルギーのOLと元編集者の先輩とのユーモラスなやり取りを中心にした本書は、楽しく読めて役に立つ1冊。ここでは、そのCHAPTER01を2回に分けて公開します。前編のテーマは「イチブンイチギ」って、何それ?

【本書のあらすじ】
小学生の頃から作文が大嫌いで文章アレルギーを持つモモは、ウェブ制作会社に勤める25歳。新しい上司から文章を書かされる機会が増え、苦悶の日々を送っている。見かねた同僚の元編集者、モジャ先輩は、モモに基礎の基礎からレクチャーをはじめた。社内懇親会の案内文を書くのにも苦労するモモだったが、少しずつコツを身につけていく。

モモとモジャ

ひとつの文章にはひとつの意味を

そもそも何を書いていいかさえわからない

静まり返った深夜のオフィス。広々としたフロアで明かりが灯っているのは、北川桃果(モモ)のデスクがある一角だけです。

モモは眉間にしわを寄せてパソコンとにらめっこをしています。

モジャ「おいモモ、まだ仕事してるのか?」

WEBディレクターの佐々木宗馬が、オフィスに入ってくるや第一声を上げました。佐々木は株式会社カキネットのWEBディレクター、社内きっての期待のホープです。クライアントがいる福岡からちょうど戻ってきたところでした。

佐々木の声にハっとして、モモがフロアの壁時計に目をやりました。間もなく時計の針が21時を指そうとしています。すぐに佐々木のほうに目を移したモモは、「なんだ、モジャ先輩かあ」とつまらなそうにつぶやきました。

モジャ「おい『なんだ』とはなんだ」
モモ「堅苦しいこと言わないでよ。もう夜も遅いんだから」
モジャ「その理由、意味わからんわ」
モモ「社内懇親会の幹事を頼まれたから、急ぎで案内文を作っているところなの」
モジャ「それはそれは。誰に頼まれた? 後藤チーフ? それとも福浦部長?」
モモ「ゴッチ、いや、後藤チーフ。アシスタントってホント雑用ばかりでイヤ。私もいい加減、ディレクターに昇格したいよ」

モモがたいして慌てることもなく名前を言い直す様子を見て、佐々木は苦笑しました。佐々木は28歳。モモより3つ年上です。ただし、佐々木がカキネットに転職してきたのは2年半前。モモが新卒で入社した年の秋のことでした。

自分より遅れて入社したにもかかわらず、颯爽と仕事をこなす佐々木に、モモは妙な敵対心を抱いていました。

そんな因果もあって(?)、なぜかモモは佐々木に対してタメ口をきいています。もっとも、佐々木はそんなモモの態度をまったく気にしていません。

モモ「後藤チーフが上司になってから、やたらと文章を書かされる機会が増えちゃって」
モジャ「へえー、ところでモモって文章を書くのが得意なの?」
モモ「まぁ……というか超がつくほどニガテなんですけど」
モジャ「じゃあ、案内メールを書くのもひと苦労ってわけだ」
モモ「まあねー〈ほっとけ!〉」

佐々木は、切れ長な目とシュッとしたヘビ顔が印象的。その上には爆発系のもじゃもじゃパーマを載せています。だから愛称は「モジャ先輩」。名づけたのはモモです。

モモ「後藤チーフにいろいろと頼まれるから、がんばって書いてはいるけど、なんだかいつも怒られてばっかり……。文章を書くのってホント大変」
モジャ「まあな。で、書けたの? どれ見せてみな」
モモ「あ、まだダメダメ!」

忍者のような素早さで佐々木が、モモのノートパソコンをシュっと取り上げます。モモは呆気にとられた表情で、佐々木の横顔を見ています。例文1

30秒経過。読み終えた佐々木は、神妙な面持ちでノートパソコンを閉じて、そっとその場から立ち去ろうとしました。