photo by peshkov/Fotolia
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「知恵」の脳細胞は、中年期からも増え続ける

少し前まで、脳の細胞は加齢とともに失われ再生することはないと信じられていましたが、脳スキャナーを使った研究が可能になったいまでは否定されています。人間の正常な老化過程では、脳細胞が大量に失われることはないことが確認されているそうです。

それどころか、中年期の後半になっても、脳の一部の細胞が増え続けることがわかってきました。それはミエリン(髄鞘)と呼ばれる部分で、脳の神経細胞を包む白色の脂肪のかたまり(白質)です。「脂肪のかたまり」だからといってあなどってはいけません。このミエリンが増えると、細胞同士のつながりが生成されて、認知能力にいい影響を与えるのだそうです。

ある神経科学者による脳をスキャンする研究でも、前頭葉と側頭葉という2つの重要な脳の領域で、ミエリンが中年期以降も増加し続けることが突き止められています。

そしてこのミエリンの増加と「中年の知恵」が関係している可能性があると指摘されているのです。中年の知恵とはたとえば次のようなことです。

・物事のパターンを見つけて概念化する
・要旨を素早く理解しシンプルに結論に導く
・全体像を上手につかむ

神経学者たちはさまざまな調査の結果から、若者の脳と比べても、中年の脳の方がこうした能力が高いと考えています。

中年期に入り頻繁にド忘れをしながらも、難しい交渉をまとめたり、経営戦略を策定したり、組織を率いたりすることができるのは、ミエリンの増加によって多くの神経細胞がつながり、物事の全体像や本質を理解する「認知パターン」を蓄積しているからだと、本書では示唆されています。

ではなぜ、ド忘れがおきるのか?

脳は衰えないというのなら、なぜ人の名前をド忘れしたりするのでしょうか。これに関しては神経科学者であるデボラ・バークの説をかいつまんで紹介します。

まず、名前の記憶は加齢によって失われるわけではありません。記憶自体はあるのですが、古いものは記憶の積み重ねの底に行ってしまう。そうなると、それを引き出すのに苦労するようになる。本が大量にある図書館で、探している本になかなか出会えないのと一緒です。

別な理由も指摘されています。私たちが人の名前を思い出すとき、その音(音韻)と情報を頭のなかで結びつけて引き出します。しかし、単語の音韻と情報の記憶は脳の別々の領域にあることがわかっていて、しかも両者の結びつきは恣意的で本来無関係です。したがって、その名前をあまり口に出していなかったり憶えてから長い時間が経過していたりすると、そもそも無関係な両者の結びつきはさらに弱まっていくのだそうです。

このようにして起こるド忘れは、加齢によって起きやすくなるものではあるにせよ、いたって正常な現象であり、取るに足らない小さな欠陥です。それを補って余りあるよさが中年脳にはあるのだから、いちいちうろたえることはない、というのが著者の主張です。

脳によい習慣とは?

さて、本書の後半では、中年期以降の脳をより健康に保つために次のような生活習慣が推奨されています。

・(ランニングなど)定期的なエクササイズ
・(ブルーベリーなど)抗酸化能力の高い食物を摂る
・社交的な生活

それぞれの要旨を見てみましょう。