年収1000万――。税金・社会保険料などで300万ほど引かれるため手取りは思ったより少ないとか、児童手当の対象外になるとか、「感情的幸福度は年収7万5千ドル(1ドル=110円換算で約830万)がピーク」という研究結果がある(参考)など、意外にネガティブな話もありますが、それでもひとつの目標として目指す人は少なくありません。
とりわけ、30代で年収1000万を得ている人は世代の人口比で約1%(参照:国税庁調査)と極めて少なく、「俺たち平均年収のサラリーマンとは住む世界が違う」とこぼす人もいます。しかし、ヘッドハンターとして1万人以上の転職支援を行ってきた夏目俊希さんは「そうした最初から優秀な人ももちろんいますが、割合としては“普通の人”がキャリアアップを重ねて年収1000万に到達するほうが多い」と語ります。
では、“普通の人”からマネジャー、部長へと出世して年収が上がっていき、30代で1000万円に到達する人にはどのような特徴があるのか。夏目さんの著書『30代で年収1000万になる人、一生400万のままの人』(以下、本書)から一部を要約・抜粋のかたちでみてみましょう。
Case1. “完璧さ”に対する考え方
仕事で一番重視すべきものは何か――こう問われたとき、あなたはどう答えるでしょうか。「粗雑な仕事は評価されない。高い質で完璧に仕上げてあることが大事だ」と考える人もいることでしょう。
それはそれで意味のあることなのですが、着実に年収を積み上げていく人たちは「質よりも早さ」を重視します。どんなに質の高い成果を出せたとしても、期限に間に合わなければそれまでです。見積でも企画の提案でもなんでも「期限が決まっている場合は、それを守る」ことがなによりも優先されるので、高い年収を稼ぐ人はみな、それを心掛けた仕事をしています。
ただし、こうした人たちは質をおざなりにしているわけではありません。高い年収を稼ぐ人たちは「一度、6割で終わらせる」ことを心掛けています。6割ほど完成した時点で、一度上司などのチェックにかける。もし、目標とのズレがあった場合、その時点で軌道修正がかけられるので、結果的に成果物の精度を上げることができるのです。
「Done is better than perfect !(完璧を目指すよりまずは終わらせろ!)」――Facebookの創設者、マーク・ザッカーバーグはこのように言いました。スピード感が最重要視されるIT・Webサービス業では、完璧であることよりも、とにかくまずは終わらせることが大事です。これは他の業種にもあてはまるといえるでしょう。
Case2. 本当に聞きたいのは「部下の言いわけ」か、「次の一手」なのか
マネジャークラスともなれば部下からさまざまな報告を聞くことになります。当然「悪い報告」を受けることもあるでしょう。そのようなときに上司はどう考え、部下に接するべきなのでしょうか。ここでは、夏目さんがキャリア支援をしてきたなかで印象に残ったエピソードから、そのヒントをみてみましょう。
キャリア支援をしているなかで、内容がよくてもそうでなくても、いつも部下の報告を楽しみにしている、というマネジャーがいました。
「いい報告も悪い報告も、すべて楽しみにしています。悪い報告を楽しみにしているというとおかしいかもしれませんが、部下にとって上司に悪い報告をすることは、成長につながるヒントが隠れていると思っています」
「どんなヒントなんですか?」
「部下は悪い報告をする際、どうしても言いわけをしてしまいがちになると思います。でも、私は部下にいっさい言いわけを禁止しています。言いわけをする暇があったら次の一手を考えなさいと。だから悪い報告でも、次の一手をはっきりと示せるならばむしろ応援しています」
(本書P.125-126より)
実は、この人がマネジャーになった当初は、悪い報告に対しては感情もあらわに怒鳴っていたそうです。部下からすると、報告しづらい内容は可能な限り穏便に済ませたいと思うもの。それを怒鳴られていたらたまったものではないので、報告は次第に言いわけから入るのが常になっていたとのことでした。
その後、この人は「部下の言いわけを聞きたいのではなく、成長を一緒に喜びたくてマネジャーになった」という原点に立ち返り、根気よく接し方を変えていったところ、今では悪い報告であっても部下の方から次の一手を提案・実行するようになり、自身も別の重要な部署を任されるようになっていったそうです。
夏目さんは人心をつかみ、年収が上がっていくマネジャーの心得を次のように語っています。
部下からの悪い報告があると、つい感情的になりがちです。しかし、そんな上司には、部下も言いわけでその場を取りつくろおうとします。そこには何の生産性もありませんし、成長できる材料もありません。
私がキャリア支援をしてきたあるマネジャーは、言いわけばかりの部下に「辞めてしまえ!」といったところ、本当に辞めてしまったという話をしてくれました。意図しなかった結果になり、上司としての自信を失いかけたそうです。
けれど、このままではいけないと、まずカッとなりそうな自分を抑え、部下の報告をとにかく聞き、「これからどうするかを一緒に考えよう」と提案するようにしたそうです。その後、部下たちは自分で考えるようになり、出世していく人が次々と出てくるようになったといいます。
年収が上がるマネジャーほど、部下からの言いわけを聞かず、次の一手を聞き出します。今後どうすればいいのかを、いつも部下に考えさせるのです。次の一手を部下が自ら考え、行なうことを支援する姿勢を見せることで、部下にとって報告の場は、新しい一歩を踏み出す貴重な機会へと変わるのです。
(本書P.126-127より)
Case3. 「管理職の管理職」である部長が成すべきこととは
組織によっては呼称が異なる場合もありますが、一般的に「管理職のトップ」といえば部長のことを指し、課長・係長といったいわゆるマネジャークラスとは役割が異なります。マネジャーの役割が「スタッフの業務を管理し、目標を達成するために統率すること」だとすれば、部長の役割は「組織が目指すべき目標を設定すること」になります。
部長の職務は決してマネジャーの延長線上にあるわけではないため戸惑いを覚える人も数多く、そこで考え方を切り替えられるかどうかが「優秀なリーダーになるか否か」の分岐点になります。夏目さんがキャリア支援したなかで部長に昇進した人も、その一人でした。
キャリア支援をしてきたなかで、部長に昇進したものの、最初は勝手がわからずとまどっていましたが、仕事をこなしながら実感がわいた、という人がいました。
「マネジャーのときは達成すべき目標が上から降りてきました。当初はその難易度に一喜一憂していましたが、とにかく組織の目標を達成するためにどうすればいいかを常に考えていたように思います。でも、今は自らが目標を考える立場になったんです」
「目標を考える際に何か意識していることはありますか?」
「部下への問いかけを、『どうすれば?』から『なぜ?』に変えました」
「『なぜ?』とは?」
「そもそも、なぜこの目標を達成すべきかという目的を考えるのです」(本書P.155より)
リーダーがなすべきことは「マネジャー以下スタッフの仕事を生み出すため、目標を自ら考えて作り出すこと」です。そしてその目標について「なぜそう設定したのか。それを達成したらどのような未来が拓けるのか」ということを、責任をもって語れなければなりません。年収が上がっていく優秀なリーダーの条件について、夏目さんは次のように語っています。
年収がどんどん上がるリーダーほど、仕事はこなすものでなく、自らつくり出すものだということを知っています。目標が達成されれば、新たな目標を設定することが大切だということも理解しています。
たとえば、「来期は今期より20パーセントアップの売上を目指す」といった目標を設定したら、部長は、なぜ20パーセントアップなのかを語れなければなりません。また、20パーセントアップしたらどうなるのか、未来を明確に言葉で表現しなければならないのです。
「なぜ?」という視点を持つからこそ、部下たちにしっかりとした理由を示すことができるのです。「どうすれば?」だけでなく、「なぜ?」と自問しながら仕事を生み出すリーダーをぜひ目指してください
(本書P.157より)
以上、年収が上がっていく人の特徴を、スタッフ・マネジャークラス・リーダークラスそれぞれのケースで見てきました。もちろん、ここで挙げたことを心掛けるだけで年収があがるわけではありませんが、日ごろの仕事への取り組み方を見直すうえで、参考にしてみてはいかがでしょうか。