新刊『課題解決につながる「実践マーケティング」入門』(理央周 著)から、「ターゲティング」をテーマに全3回の連載をお届けします。第1回は「ターゲットを絞り込む理由」について。
【今回のPoint】ターゲット設定で投資対効果を最大化する
□「万人受け狙い」をやめてターゲット(想定顧客)層を絞り込む
□ターゲット設定の目的は、経営資源の投資対効果を向上させること
□絞るとは優先順位をつけること
□主要ターゲットに近い層から、徐々に広げていく仕組みを構築する
※著者講演会を2017年11月8日(水)に開催します。詳細は2ページ目末尾をご参照ください。
マーケティングの役割のひとつは、限られた経営資源を効率的に使って、投資対効果を最大化することです。そのために、市場全体ではなく、自社プロダクトに価値を見出し購入してもらえそうな想定顧客層を明確にします。
これを「ターゲット設定」と呼びます。ポイントは、万人受けを狙うことをやめて、想定顧客層を絞ることにあります。
99%のモノはいらない
そもそも、なぜターゲットを絞るのでしょうか?
「うちの商品は、世の中のたくさんの人に買ってもらいたいのに、ターゲットを絞ってしまったら、売れなくなってしまわないか?」と不安を感じる人がいるようです。
しかし、世の中にモノはあふれ、生活者の価値観も多様化しているため、万人受けするプロダクトはありません。生活者は、自分のニーズに合うものを、数多くの候補の中から比べて選んで買っているのです。「人は世の中の99%のモノはいらない」というぐらいの前提に立ってマーケティングをすることが大事です。
ターゲットを絞ることによって、「私のための商品だ」「こんな商品が欲しかった」といったプロダクトの存在や価値についての情報を、想定顧客層に効果的に伝え、購入を促進することができます。
たとえば、「誰にでも愛されるジュース」と不特定多数にアピールするよりも、「健康を第一に考えている女性のためのジュース」と特定の人に向けて謳うほうが、「あ、これ私にぴったりだ!」とほかの数多くのジュースの中から選んでもらえる可能性が高まります。
「飲食店」にターゲットを絞って売上が伸びた女性税理士
ターゲットを絞らないと、経営資源の「無駄撃ち」が発生します。自社プロダクトを購入する可能性の低い人たちに向けて、コミュニケーションをとってしまうことになるからです。また、自らが望まない顧客層が来てしまい、本来の顧客層を逃してしまう可能性も高まってしまいます。こうした事態を避けるためにもターゲットを絞るのです。
ターゲットを絞ったことにより、収益を上げた女性の税理士がいます。飲食業出身で調理師免許を持つというユニークな経験を活かし、「飲食店オーナー」を想定顧客層とし、名刺にも「飲食店専門の税理士」と書いていました。
これにより、「ほかの税理士よりも飲食店の税務や会計、アドバイスをしてくれそうだ」と飲食店オーナーに専門性の高さを印象づけられます。専門性の高さは顧客の信頼を呼び、ひいては売上につながります。
「どんな会社の税務でもお任せください」といわれるよりも「飲食店の税務ならお任せください」といわれるほうが、飲食店オーナーはお願いしたくなるでしょう。
数年後、彼女は「女性を集客したい飲食店専門の税理士」と名刺を書き換え、さらにターゲットを絞りました。彼女自身の経験に、女性の気持ちがわかる税理士という印象を加えることに成功し、より想定に近い飲食店経営者が顧客になったそうです。
このように市場にいるすべての人たちの中から、「自社プロダクトに価値を見出し、適正な対価で買ってくれる、自社にとって理想のお客様像」を決めると、顧客に対して効果的な販売促進をすることができます。