2000年よりサントリーフーズから発売されている機能性飲料、「DAKARA」のネーミングはその意味で大変優れています。「〜だから」という問いかけ、「だから!」という自信、カラダ(身体)とのアナグラム……非常に多層的でコミュニカティブ。キャッチフレーズの「カラダ・バランス飲料」がさらに援護射撃します。
他の機能性飲料がスポーツと絡めて訴求されるのと違い、製品自体もしっかり差別化ができています。調査の結果、一般にスポーツドリンクが飲まれるのは、スポーツ後ではなくむしろ二日酔いの後や仕事の合間など、食生活の乱れを調整する意識ゆえ。だから、そのようにコンセプトが再設定され、研究にもさらに2年を要したそうです。
12年4月から発売されている派生製品の「GREEN DA・KA・RA(グリーン ダカラ)」の広告展開もツボを得ていますね。これは11種類の自然素材と純水だけで水分補給に適したイオン濃度と浸透圧に調整されている。だから、より健康飲料をアピールできるのです。
グリーンダカラちゃんという子役のキャラを立たせたCMも面白い。放映開始の段階ではわずか3歳という、しずくちゃんはほとんど素人。仲良しの実の妹、なぎさちゃんがおり、13年7月発売の姉妹商品「やさしい麦茶」のキャラクター、ムギちゃんとしてCMに登場しています。
サントリーは他にも「なっちゃん」という、秀抜な呼びかけネーミングのロングセラー商品も販売しています。これなど「みんなで楽しく遊んだ夏、隣に住んでいた女の子の名前」という設定からネーミングされました。なっちゃんと飲んだあのジュース、おいしかった──という豊かな情緒性がある。初代なっちゃんの女優の田中麗奈はおかげで大いに売り出しました。
サントリーにはかつてオレンジ50という、“♪私言います 母さんに〜”のコマソンも名曲として残っている商品がありました。ここでも女優の原田美枝子がセットで売り出された。コミュニカティブな広告展開が得意なのです。
看板のウィスキーは当然、誰かと飲む前提。それは大衆品のレッドでも高級品のローヤルでも変わらない。呼びかける相手が違うだけ。レッドなら、女優の大原麗子が市川崑演出のドラマ仕立ての世界の中で「少し愛して長く愛して」とつぶやく。リザーブなら、名監督黒澤明が撮影スタッフと大いに歓談する場面を捉える。
ちなみに同社は最初のヒット商品である「赤玉ポートワイン」の赤玉がもともと現している太陽=サンと、創業者の鳥井信治郎の鳥井のトリーをくっつけ、社名もサントリーとしたそうです。しかし、ここにも単に鳥井さんを逆さにしただけ─という都市伝説が残されている。いまだに非上場でファミリー気質が強い会社ならでは……と思ってしまいます。
コンビニの棚には商品が溢れ、人々はネットでも仮想のコミュニケーションに溺れつつ、実は相当に乾いて・渇いている。そこへこんな“呼んでいる”ネーミングの商品が目に飛び込んでくると、客は思わず応じてしまう。ストレートな呼びかけネーミングでなくとも、商品名が持つコミュニケーション力にはぜひ留意してください。
今回ご紹介するのは以上になります。本書では、残りの2か条でも実在する商品名を交えるなどして「ネーミングのノウハウ」について解説しています。興味のある方は、是非読んでみてください。