会社は成長していたものの、このままではいずれ行き詰ってしまう。社長就任が予定されていた江川氏は、「絶対に会社を変えなければならない」と決意し、それを就任の際のコミットメントとして掲げることにしました。アクセンチュアの社内カルチャー改革『プロジェクト・プライド』はこのような状況からスタートしたのです。

トップ自らが改革を主導、役員たちも巻き込む

解決すべきことはたくさんありましたが、江川氏は優先課題を次の「3つのチャレンジ」に絞り込みました。

■3つのチャレンジ
「ダイバーシティ・チャレンジ」→女性、ダイバーシティ、クリエイターなど、さまざまな人が活躍する状態をつくる
「リクルーティング・チャレンジ」→急成長し続けるスピードに合わせて、継続的に優秀な人材が参画し、活躍する状態をつくる
「ワークスタイル・チャレンジ」→より短い時間で、高品質の価値を生み出す働き方を定着させる

通常、このような取組みは掛け声だけで終わってしまいがちです。過重な業務を抱える社員にとっては新たな負担でしかないからです。しかし江川氏は、危機感からくる強固なリーダーシップと、プロジェクトを確実に進めるための体制づくりによって改革を断行すべく、動き出しました。

『プロジェクト・プライド』のリーダーは江川氏自身が務めました。自ら責任を持ち、トップダウンで強力に推進していかなければ改革は絶対に実現できないと考えたからです。さらに直轄の事務局をつくり、人事や管理部門の責任者、「組織改革」専門の社内コンサルタントなど5名のスタッフを集めました。

また、役員クラスの部門長もコアメンバーとしました。彼らのコミットメントなしに改革は動かないからです。さらに各部門にはチェンジエージェントと呼ばれる『プロジェクト・プライド』の担当者を置き、実働を担ってもらうこととしました。

ただし、このような体制づくりは当初からスムーズにいったわけではなく、形になるまでに3ヶ月を要しました。社内から相当な反発があったからです。

「業績も悪くないのに、なぜ変わらないといけないのか」
「これだけ長く男性カルチャーでやって来たのに、簡単に変われるわけがない」

反発は、プロジェクトのフェーズが進んでも完全になくなることはありませんでしたが、それを乗り越えることができたのは、徹底した社員の意識調査とディスカッションにあったようです。

噴き出した社員たちの「本音」

2015年4月、全社員ミーティングにおいてオリジナルビデオが流され、『プロジェクト・プライド』のキックオフが宣言されました。以降継続的に、事務局や江川氏自身がプロジェクトの意義を伝えるメッセージを発信するとともに、詳細に設計されたロードマップに沿って改革は実行に移されました。

ところが、現場のリーダー(部長クラス)や社員の本気度はなかなか上がっていきません。そもそもが多忙なうえに、プロジェクトを醒めた目で見るリーダーも多かったのです。

そこで江川氏は、部長クラス200人を一堂に集めて、3時間にわたって自由にディスカッションする機会を設けました。

改革に懐疑的だったリーダーたちも、仲間たちと議論する機会を得て変わっていきます。ディスカッションはカラフルな付箋を手に大いに盛り上がりました。「根本原因は何か」「具体的にいまどんなアクションを起こすべきか」と次々にアイディアが提案され、このディスカッション以降、順次実践していくことになります。

実は、マネジャー未満の現場スタッフたちも不満を抱えていました。とくにある部門では、「付加価値を提供する我々は、突きつめて考えることが仕事であり、効率化などできない」と、プロジェクトに対してきわめてネガティブな受け止め方をしていました。

プロジェクトについてディスカッションを行なったこの部門のスタッフミーティングでは、彼らの「本音」が次々と噴き出したそうです。

「ある上司が飲み会でこんなことを言っていました。こういう動きって、何年かに一回あるよね、と」
「毎日、途方もないほど忙しいのに、本当にやろうとしているとは、とても思えない」
「まったく本気が感じられません」
「マネジャーと飲みに行くと、『プロジェクト・プライド』なんて関係ない、とみんな言ってますよ。本当に、会社を変える気なんて、あるんですか?」