【例文】
第一条
太郎は次郎に対し金500円を貸与する。次郎は2011年12月31日を期限としてこれを返済する。
第二条
太郎は、次郎の側に合理的理由があると認めるときは、返済の期限を延期することができる。仮に、次郎が2011年12月31日になっても太郎から借りていた500円を返したくないと思い、「第二条によると『期限を延期することができる』んだから、まだ返さないよ!」と言い張ったとしましょう。次郎は正しいでしょうか?
例文の第二条は、太郎の権利を規定したものです。太郎が「返済の期限を延期することができる」という条文は、「太郎は返済の期限を延期しないこともできる」ことを意味します。つまり、期限を延期するかどうかは太郎が一方的に決めてよいことなのです。
したがって、次郎が勝手に「まだ返さない」と決めることはできません。もちろん、太郎が「まだ返さなくていいよ」と言ってくれれば話は別です。
(『読解力の基本』速越陽介著 P.154-155より一部編集のうえ引用)
一見複雑に見える例外・二重否定
実社会では、どのような約束事を決めても必ず例外というものがでてきます。当然契約書でも、権利や義務を規定するにあたり、例外についても厳密に書いておかなければなりません。なかには、二重否定の書き方をつかって「例外のなかからさらにまた例外を規定している」など、一見わかりづらい書き方になっている場合もあります。具体例で見てみましょう。
【例文】
第3条
1 当会社は、次の(1)から(12)までのいずれかに該当する事由によって生じた傷害または発病した疾病に対しては、保険金を支払いません。
(中略)
(9)戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱またはその他これらに類似の事変。ただし、テロ行為(注5)を除きます。
(中略)
(注5)テロ行為
政治的、社会的もしくは宗教・思想的な主義・主張を有する団体・個人またはこれと連帯するものがその主義・主張に関して行う暴力的行動をいいます。(『読解力の基本』速越陽介著 P.164より一部編集のうえ引用)
この条項は、保険会社(=サービスの提供側)が「保険金を支払う(=サービスを提供する)義務を負わないパターン」を書いた「免責事項」と呼ばれるものです。通常、保険会社は「契約者が事故や病気にあったときに保険金を支払う」というサービスを提供しているため、このような免責事項は「支払い条件の例外」を規定していると言えます。
ここで(9)を見てください。この第3条の1は「支払わないケース」について規定しているので、「戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱またはその他これらに類似の事変」といった理由で契約者がケガをした場合は、保険金を支払わないとしています。
しかし、その直後に「ただし、テロ行為(注5)を除きます」と書かれており、その下の注釈でテロ行為とはどういうものを指すのかを規定しています。この場合、「支払わない」というケースからさらに例外として除かれているので、仮にテロ行為によってケガをした場合は保険金が支払われるということになります。
ついでに、この文面についてもう少し考えてみましょう。「革命や内乱による被害に対しては保険金が支払われないが、テロ行為によるときは支払われる」とありますが、現実的に考えると、革命や内乱も一定の政治的・社会的信条のもとに行なわれている行為なので、テロ行為との境界は非常にあいまいです。
それらの違いを定め、保険金支払いの判断を下すのは保険会社です。ここでもし「保険金を支払わない」という結論になったら、契約者と保険会社の間で利害の衝突が生まれます。実際、保険に限らずとも契約書の文面の解釈をめぐって裁判になることも珍しくありません。
こうしたことを防ぐには、契約締結時に例外(ときには例外の例外)を把握したり、不明な点についてしっかり確認することが必要です。そのためにも、契約書よく読む習慣をつけることが重要だといえます。