日本には、その高機能を作り上げることができるエンジニアがいて、その要求仕様を満たすことができる生産ラインがあった。そのため、技術の追求だけに目がいって、高機能追求が好きな一部のユーザーの存在を過剰に意識した。
また、高機能で高価格な製品は、作る側の自尊心もくすぐる。オーバースペックだろうと、何だろうと、一度それを追い求めると視野狭窄(きょうさく)に陥る。
明治の文明開化から、日本人は西欧の優れた技術を学び取り入れ、そこに追いつくことだけ考えて必死にやってきた。その時はそれでよかった。先人たちの、その努力があったおかげで今の日本がある。しかし、その技術追求姿勢がうまく行きすぎて追い越す対象がなくなってからも、それが忘れられない。あえていうが、過去の成功経験は教訓として理解するのでなければ、忘れたほうがいい。
技術革新を続けていかなければ、どんな技術もやがて陳腐化する。むろん、前述したように、技術によってその賞味期限に長い、短いはある。
60年代から80年代にかけて、日本のカメラメーカーやオーディオメーカーは、まさに賞味期限の短い技術で華々しく戦っていた。その挙句が現在の姿だ。
技術をどのように活用するかを考える
MOTが必要とされる最大の理由は、技術の活用を間違えないようにすることである。そのために、自社技術の賞味期限を知り、他社、他国の技術動向を探る。もちろん、これは技術を盗むということではない。むしろ、消費者のニーズを満たしている技術は何かを見定める、という意味である。
そして、自社技術を自社の成長に役立てるための戦略を考える。
ただし、戦略を立てる部分において特効薬はない。戦略策定ツールなるものがあるが、どれも眉唾(まゆつば)ものである。せいぜいやりはじめる時のハードルを下げる意味しかない(それで十分という意見があることは知っている)。
自社の方向性、将来の姿を決める戦略なのだから、頭から汗が出るまで考えて考え抜くしかないのだ。これは、経営者だけの話ではない。若い時に取り組む小さなプロジェクトひとつにしても、自社の経営戦略のどこに位置して、どんな役割を担っているのか考えて取り組む必要がある。これを、軽く考え、技術の面からだけしか見ようとせず、MOTに関して何も考えずに取り組んでいたら、あなたの成長に何も寄与しない。
小さな、ほんの小さな技術の一部を任された時でも、その活用を考えながら、プロジェクトを進めることで、あなたはきっと成長できる。