たとえば、取引先に企画提案に行くとしましょう。まずゴールから考えます。この資料をつくることで、相手にどんな意識を持ってもらいたいと考えるでしょうか。
1度目の訪問の目的は、その企画に興味を持ってもらい、社内で検討してもらうことになるでしょう(行動)。そのため、まずは企画の概要と、相手が感じるメリットを中心とした簡単な資料をつくり、企画の内容をわかりやすく伝えます(理解)。
ここで、まだ企画が進行するかどうかわからない段階なのに、細かく書かれたガントチャート(進行スケジュール管理表)を見せようものなら、相手は取りかかる前から面倒な感じがしてしまうでしょう(感情)。企画自体にも興味を持ってもらえなくなるかもしれません。
資料の目的をしっかりと意識しないと、このような感じで求められていない資料をつくってしまうことになります。このように、「行動」「理解」「感情」の3つに分けて考えると、資料の目的がわかりやすくなります。
(本書、13~14ページより)
これまで清水さんは、人材開発コンサルタントや人材育成部門のリーダーとして数千人以上の資料を見てきましたが、「何を目的にしてつくったのかがわからない資料」が非常に多かったそうです。ところが、「この資料の目的は何か?」という問いかけを最初にするだけで、資料の完成度は格段に高くなったのだとか。
いくら見やすく、分かりやすい資料をつくろうとしても、この3つの視点が欠けていたら「良い資料」はつくれません。「資料」と聞くとすぐに「良いデザインにしなければ」と考えてしまいがちですが、まずは「人を動かす資料をつくる」という目的を明確にしてすることが重要なのです。
資料作りで一番やってはいけないことは?
資料作成において、「目的をまず決めること」を必ずやらなければいけないことだと説明しました。そして、その一方で絶対やってはいけないことも存在します。
それは「提出期限までに完成しないこと」です。
「ここまでしか出来ていません」「あと1時間あれば、完成します」という言い訳はありがちですが、ビジネスシーンではほぼ通用しないと思っていいでしょう。とくに取引先へ提出する資料の場合は、あってはならないことです。
どんなに凝った資料をつくっても、その資料が必要な打合せや会議に間に合わなければ紙くず同然です。そのため、仕事ができる人は納期に余裕をもってスケジュールをたてることを絶対条件としています。
もし、あなたが資料づくりに慣れないうちに、重要度の高い資料の作成を任されたときには、完成に至るまでに最低でも3回は上司に確認(レビュー)してもらえるようにスケジュールを設定しましょう。これは、ギリギリに提出した資料がまったく的外れな内容で取り返しがつかない、という事態を避けるためにも有効です。
1、方針レビュー
口頭で伝える程度でかまわないので、「こういう相手に、このような行動をとってもらいたいので、こんな資料をつくろうと思います」と、資料の目的が整理できているかを上司にチェックしてもらいます。この最初の一歩の踏み出し方が、その後の資料の道筋となるので、間違えることのないようにこのタイミングでレビューをしてもらうことはとても大事なことです。
2、ドラフトレビュー
ドラフトとは、下書き、原案という意味です。「メッセージ(主張と根拠)」と「ストーリー(全体の流れや構成)」が組み上がり、いよいよパワーポイントやワードを立ち上げる前に、レビューしてもらいます。
下書きの段階で内容を口頭で説明をするときに、話しにくいところや言いよどんでしまうところがあったとしたら、その資料の構成には、どこかに論理的な破綻があると考えて間違いありません。全体を通して矛盾がないかを確認してもらうことが大切です。
3、最終レビュー
最終レビューは、本番前のリハーサルです。誤字脱字がないか、グラフがわかりにくくないかなど、見た目やプレゼンのチェックをして完了です。
資料は自分以外の人間が見るものです。自分がその目的を分かっていても、他者が理解できなければ意味はありません。上司のレビューは、もっとも信頼できる他者の視点です。
このように、3段階のレビューを経ることで、「資料のゴールまでの道筋が間違っていた」「最後に根本的なズレが発覚して提出期限に間に合わない」という事態を未然に防ぐことができるのです。
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資料作りは、ビジネスマンならば誰もが経験する業務でありながら、奥深いものがあります。なぜなら、その資料によって相手の心をつかむこともできれば、逆の結果を生んでしまうことにもなりかねないからです。
「私は社内の人としか関わらないから」という人でも、提案書を書いたり、企画書を書いたり、報告書をまとめることもあるでしょう。社内外問わず、ビジネスシーンにおいて必須のスキルである「資料作成」について苦手意識をもっている人は、ぜひ参考にしてみてください。