もし売り手が、「この車はあまり優良ではないから、30万円でも売ろう」と考えていたら話はスムーズです。30万円から40万円の間で商談が成立する可能性が高いでしょう。しかし、「これはとても大事に乗ってきた車だから、70万円より安くは売らない」と考えていたらどうでしょうか。
あなたはすんなりと上限の80万円を出すでしょうか。あるいは売り手が考える70万円を出すでしょうか。おそらくは、車の状態がわからないのだから、そんなに気前よくはなれないでしょう。高いお金を出して不良品をつかまされるのは避けたいはずですから、心情としては40万円と80万円の「中間の」60万円くらいが限度ではないでしょうか。
すると売り手はどうするでしょう。せっかく大事に乗ってきたのに70万円以上では売れないのだから、売らない。そして、その市場から去ることになります。その結果、市場に残るのは優良ではない車だけとなります。
つまり、「情報の非対称性」がある市場では、買い手が高い価格を払えなくなってしまい、その結果優良なものが市場からなくなって質の劣ったものが残るという、非常に困った現象が起きてしまうのです。これを経済学では「逆選択」と呼びます。
一般的に、市場において自由な競争があれば、より安価で質の良いモノやサービスを生むと信じている人が多いでしょう。しかし、「情報の非対称性」のもとではまったく反対のことが起こるのです。
誰も市場にいなくなる?
さあ、話を「消費者金融の金利問題」に戻しましょう。ここにも、「情報の非対称性」と「逆選択」の問題が絡んできます。
消費者金融の市場における「情報の非対称性」とはなんでしょうか。それは、お金を貸す側と借りる側の間にあり、重要になるのは「返済能力」ないし「貸し倒れリスク」に関する情報です。
もし、お金の貸し手が借り手の返済能力を熟知しているなら(「情報の非対称性」がないなら)、その貸し倒れリスクに応じて金利を設定するのが適切です。信用がおけて、確実な返済が期待できる借り手に対しては金利を低く設定して、次も借りてくれるようにするでしょう。
逆に、返済能力に不安がある人には高い金利を要求するのが自然です。報酬として高い金利を受け取れるのであれば、一定のリスクをとって貸す。借り手も、融資を断られるよりは、それを受け入れることがいい場合もあるでしょう。
対して、貸し手に借り手側の情報がない、つまり「情報の非対称性」がある場合を見てみます。
この場合貸し手は、借り手の返済能力がわからないため、「貸し倒れリスクが高い人用」と「低い人用」の「中間の」金利を設定するしかないことになります。するとどうなるでしょう。
設定された「中間の」金利は、返済能力の高い人にとっては高すぎる金利になります。当然、「じゃあ借りなくていい」と市場からいなくなりますね。結果としてこの市場に残るのは、返済能力が相対的に低い人、ということになります。
ここでも「逆選択」が起きました。
こうなると、貸し手にとってはリスクが高まるので、市場に残った返済能力が低い人向けに、金利をさらに高めに設定するようになります。するとその金利は、「残った人たちのなかで相対的に返済能力が高い人」にとって高すぎる金利となって、その人たちも市場から去ります。そして残った人たちに対して……。