3.ツールは単純でなければ使えない
ここまでの基礎的な作業を終えた後、チームは、作成されたカスタマージャーニーマップのブラッシュアップとデジタル化をマーケティング会社に依頼しました。そうして出来上がったマップは洗練された素晴らしいものでした。
しかし、それは使いものにはなりませんでした。チームのマネジャーは、その理由について次のように証言しています。
「すぐに社内では使えないことがわかった。(中略)現場のスタッフ、販売店にとっては、あまり意味がなかった。マップは正しく、詳細なものだったが、情報量が多過ぎたのだ。(中略)従業員全員が顧客の視点を理解できるようにするには、マップを簡略化しなければならなかったんだ」
(顧客体験チームのゼネラルマネジャー、ハリー・ハイネカンプの証言 93ページより)
リーダーたちは、複雑で情報過多なツールは部下をかえって混乱させると考えました。従業員に浸透させるには、もっとシンプルで、わかりやすいものにする必要があったのです。
そんなとき、ある1人のリーダーが、「車輪をモチーフにしてカスタマージャーニーを表現すること」をひらめきました。そのひらめきを元につくられたのが、前ページに掲載した「サービス」に関するマップです。
新しいマップでは、顧客とのタッチポイントが「受注する(赤)」「良い関係を築く(青)」「約束を守る(緑)」「心に残る体験を創出する(黄)」に色分けされたうえで、それぞれの段階で起こる主要なタッチポイントが書かれるなど、わかりやすく仕上げられています。
このアイデアはわかりやすさと使いやすさが評価され、全米のサービス・マネジャー会議でも重要な役割を果たし、会議を大成功に導きました。そのため、「サービス」に続いて「販売前」と「販売時」のマップも車輪の形に変換されました。
「販売前」と「販売時」の車輪は、顧客が商品を調べ、購入を決めるまでの動きを示しています。販売担当者はこれを見て、見込客が何を望んでいて、何を必要としているかを理解し、行動に移すことができます。
4.顧客第一主義の実現
3つの車輪を完成させたことによって、チームはカスタマージャーニーにおけるタッチポイントを明らかにすることができました。それぞれのタッチポイントを改善し、最高の顧客体験を提供するための方法を掘り下げて考えるられるようになったのです。
また、誰が見てもわかりやすい車輪で表現されたカスタマージャーニーは、サービスを高いレベルで均質化することにも貢献しました。
そして、それ以上に重要だったのは、カスタマージャーニーのマップによって、従来の製品優先主義とは異なった、顧客を第一に考えた新しい仕事のプロセス、流れができたことでした。それこそが、メルセデス・ベンツのリーダーたちが目標とした“最高の顧客体験を届けること”を実現できる武器となるものだったのです。
カスタマージャーニーのマッピングは、メルセデス・ベンツUSAの変革のために不可欠なものでした。もちろん、取り組みはこれにとどまりません。従業員のエンゲージメントを高める施策、リーダーを育てる仕組みづくり、販売店を対象とした研修プロジェクトなども同時に行われました。
それらのプロジェクトが功を奏し、2014年には、下位に沈んでいたセールス満足度指数調査で1位を獲得しました。変革は成し遂げられましたが、メルセデス・ベンツUSAの取り組みは、現在も、より大きな目標に向かって続いています。