2022年から、「地理総合」として高校での必修科目化される予定の地理。私たちが地理に抱くイメージは、山や川の名前、都道府県の位置や県庁所在地、地域を代表する産品を知ること、といったところでしょうか。
もちらんこれらも地理を構成する大事な要素ですが、地域で生活する人々の存在を抜きに語ることはできません。人々はそれぞれの地域、それぞれの仕方で、自然とかかわりながら暮らしています。そして、その営みによって、地域がより特徴づけられていくのです。地理の理解には、そのような「人間の営み」という視点が欠かせません。
『知るほど面白くなる日本地理』(地理教育研究会 著)は、そんな「人間の営みと地域のかかわり」を感じさせてくれる地理の本。その内容から、いまの日本の姿が浮かび上がる、4つのトピックを紹介しましょう。
「モスク」は日本にいくつある?
日本に居住するイスラーム教徒の人たち(ムスリム)は急激に増えていて、2010年の推計では11万人とされています(うち1万人は日本人ムスリム)。彼らの生活に欠かすことのできないモスク(礼拝堂)は、ムスリムの移住者が増え定住化が進んだ1990年代中頃以降数を増やし、3大都市圏を中心に80以上もあります。
埼玉県春日部市にある「一ノ割モスク」は1991年に建立されたモスクで、国内で5番目の歴史を持ちます。ムスリムにとって聖なる日である金曜日には、周辺の大宮やつくばなどから車に相乗りしてやってくるたくさんの信者で混み合います。1時間ほどのお祈りのあと、ハラールショップ(イスラームの規範にのっとり処理された食材などを販売する店)で買い物をして帰るのが彼らの日常です。
しかし、国内のムスリム・コミュニティには課題もあります。日本においてイスラーム教育の質をどうやって維持するか、といった問題や、学校における共学や給食についてなど、次の世代を育てる悩みは切実です。さらには、モスクの安定的な運営や、墓地の確保(イスラームでは火葬はタブーとされています)といった問題も抱えています。
ムスリムも地域社会のメンバーです。特有の風習(ラマダーンや女性のヴェール着用)への理解も含めて、お互いをよく知るための交流が欠かせません(第9章 日本にある「世界」 より)
「ラムサール条約」って何?
「ラムサール条約」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。正式名称を「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といい、多くの生物の命を育み、人々の暮らしにも深くかかわる湿原や湖沼、河川や水田などの湿地を守るための国際条約です。1971年にイランのラムサールで採択され、2016年現在169カ国が加入し、2000を超える湿地が登録されています。
日本は1980年に加入しましたが、最初の登録地は釧路湿原でした。国内の条約湿地は、現在では50カ所を超えています。