ただ型にはめようとするだけの、上司は無能だ
彼女は他人に対して、常に「一言多い」人だったのですが、最初の上司はそれを「俺に反抗するな」と抑えつけようとしていました。彼女が仕事ができなかったのは、そんな上司への不満が理由の1つでした。
しかし、支社の上司は、「好きなだけ言えよ。お前、面白いから」と言い、その方の人格を否定することは決してしませんでした。
『スラムダンク』という高校バスケットボールチームを描いた漫画をご覧になったことはありますでしょうか。チームには主人公のような不良もいれば、コミュ障の天才もいる。才能のなさに自暴自棄になる部員もいれば、地道なまでの努力で能力の差をカバーしようとする部員もいます。
そんな様々なクセのある登場人物達を指導する監督は、決して自分の考えを押し付けたり、全員を同じ型にはめようとしたりはしません。
要所で本当に大切なことだけを指導し、部員たち自身に考えさせ、行動させることで、生徒達に自分の強みを自覚させ成長を促すのです。
クセのある人物を抑えこんでは、駄目なのです。
Hさんも、相性の悪い上司の下で働いていたときには“問題社員”としてみられ、実際に本人もモチベーションを失っていました。しかし、上司がかわり、自分自身を認め、教育してくれる上司の下では生き生きと働くことのできる社員となったのです。
部下の成長のカギは上司が握る
この例のように、「仕事ができる、できない」というのは、上司がどう言い訳しても、上司の責任です。
そう考えると、個人を成長させ、ひいては会社を成長させるには、部下が上司を選べることが理想といえるのではないでしょうか。
どの会社に入るかは自由に選べます。だれを顧客にすれば良いかも、自由に選べます。いや、むしろ選ばなければなりません。
その割には「上司選び」はないがしろにされているのです。
「優しい上司ばかりが人気を得て、厳しい上司は人気がないので、そんなことはしてはいけない」という方もいますが、人気と仕事は関係ありません。
要は、甘やかそうが、厳しくしようが、仕事は結果が出ればいいのです。
とはいっても、現実には自由に上司を選べることなんて、めったにないことも事実です。
大企業だと異動の機会を待つという手もあります。しかし中小企業の場合は、なかなか難しく、その場合は転職という選択肢もでてきます。もちろん、合わない上司の下でも学べることはあります。ときにはクソ上司の下でも文句を言わずに成果に集中して働くというのも一つの手ではないかと思います。
それに甘えた上司が部下を抑えつけて指導することがあたりまえという、会社も多くありました。
しかし、今はそれが通用しなくなってきていると感じます。
いかに優れた上司であっても、時代の変化にその都度対応をするのは難しく、様々な視点を取り入れながら、他者の知恵を集結することが必要な時代になってきています。だからこそ今は、部下の個性を抑えつけずに、強みをうまく活かす上司の方が圧倒的に必要とされる時代になりました。
社長は事業に責任をもっていますが、上司は部下に対しての責任者です。上司は部下にとって、本当の意味でキーパーソンなのです。
ビジネスパーソンにとってまず大切なのは、上司が誰かに関わらず、成果を出すことにこだわって働くこと。がむしゃらに手を動かすことです。しかし、その姿勢をきちんと保ち働いたうえで、この上司の下では成長につながらないと感じれば、それを我慢して続ける必要はまったくありません。
自分を活かしてくれる上司は必ずどこかにいるはずです。
いい上司に恵まれれば、仕事は本当に楽しくなります。ダメな上司の下で働く理由など、微塵もないのです。
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(次回、11月24日(木)公開予定)
プロフィール
安達裕哉(あだち ゆうや)
経営・人事・ITコンサルタント。ティネクト株式会社代表取締役。
1975年東京都生まれ。筑波大学環境科学研究科修了。世界4大会計事務所の1つである、Deloitteに入社し、12年間経営コンサルティングに従事。在職中、社内ベンチャーであるトーマツイノベーション株式会社の立ち上げに参画。東京支社長、大阪支社長を歴任。1000社以上の大企業、中小企業にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、8000人以上のビジネスパーソンに会う。また、セミナーは、のべ500回以上行う。その後、起業。自身の運営するブログBooks&Appsは読者100万人、月間PV数150万にのぼり、世界最大級のインターネット新聞「ハフィントン・ポスト」のブロガーでもある。
主な著書に、『「仕事ができるやつ」になる最短の道』(日本実業出版社)がある。
知と知をつなぐブログ Books&Apps
http://blog.tinect.jp/