「証券アナリスト」というと、複雑な理論や数式を用いて財務分析や証券分析を行なう、研究者や学者のような仕事ぶりを想像します。しかし、国内外のアナリストランキングで連続1位に輝き、現在は大学で教鞭をとる野﨑浩成氏は、「アナリストは研究者ではなく営業職と言ってもおかしくない存在です」と言います。
なぜなら、アナリストの仕事の大半は顧客である投資家などへの対応であり、顧客からの信頼を勝ち取らなければ自分の業績をあげることができないからです。アナリストには、重要な投資判断をしなければならない顧客のために、必要とされる情報を素早く、的確に、わかりやすく伝えることのできる行動力とコミュニケーション能力が求められます。そこには当然、他のアナリストたちとの競争もあります。
それはまさに、すべての営業職に求められるスキルです。「殿堂入りトップアナリスト」として知られる野﨑氏の著書『超一流アナリストの技法』には、顧客からの厚い信頼を得るために野﨑氏が大切にし、実践してきたことが記されています。その一端を紹介しましょう。
面倒な顧客ほど大切に
アナリストの顧客である投資家には個性的で百戦錬磨の猛者も多く、ミーティング中に意見が対立し熱い議論になることもあります。そんなときは感情的にならないように注意しながら、建設的に意見交換ができるように対応します。しかし中には、ついつい遠ざかりたくなるほど相性の悪い顧客や、ほとんどすべてのアナリストが苦手とする顧客もいたそうです。
しかし野﨑氏はそんな「嫌な客」こそ、貴重な掘り出し物と考えました。自分にとって敬遠したい対象は、商売敵である他のアナリストたちも敬遠したいはずです。ということは、その顧客に対するライバルたちのサービスが希薄になっている可能性が高いのです。そこを逆手にとって手厚く情報提供すれば、自分を差別化でき、価値を上げることにつながります。
どんな業界でも、面倒な顧客を避けていては営業パーソンとして成長できないでしょう。むしろ「掘り出し物に出会った!」と考えて力を入れてサービスし、その顧客からの信頼を得るために努力すべきなのです。結果としてスキルアップにつながると同時に、ライバルに勝つ可能性も高いのですから。
相手の時間のニーズに合わせる
アナリストが顧客にプレゼンテーションするときは、通常1時間程度の予定でアポイントをとります。しかし顧客も多忙です。本音では30分程度で十分、もっと言えば5分で十分と考えている顧客も多いのだとか。そんな時に所要時間1時間のペースで話していては、顧客の頭には残らないし、飽きられてしまいます。