腰痛は「持ち上げるときだけ」に発生するものではない
しかし、腰痛は「持ち上げる動作」だけが原因で発生するのではありません。厚生労働省が出している「職場における腰痛予防対策指針」をはじめ各所でアナウンスされていますが、前傾・後傾姿勢やしゃがみ・膝つき姿勢なども腰痛の原因となります。
たとえば、おじぎのように20度ほど前傾した姿勢は、腰椎への負担が通常時の1.5倍になるといわれています。この姿勢で要介護者を抱え上げたり、重いものを持つと腰への負担がさらに跳ね上がるのはいうまでもないでしょう。
実際に皆さんも自分自身で前屈み20度以上の姿勢を数分間試してみてください。おそらく、2〜3分もすれば耐えられなくなってしまう人が多いと思います。
耐えられた場合でも、前屈みのままに顔を洗うときのように30秒ほどでいいので顔の前で腕を動かしてみてください。動きを伴うと、腰への負担はより大きくなるので、急に耐えられなくなる人が出てくるはずです。持ち上げる動作をしなくても腰痛は起きるということが実感できるでしょう。
このように、腰痛対策として、最も避けたいのは「前屈み姿勢」です。しかし、忘れがちなのは、これに加えて「脊椎のねじれ」も脊椎や周辺組織に負担を蓄積させる要因になるということです。前屈みとともに、ねじれを起こさせないことも重要であると、付け加えておきます。
(本書p.168より)
こうした前傾姿勢は「靴を履く」「顔を洗う」といった日常動作や、「寝ている介護者を抱き上げる」ときに取りがちな姿勢です。下図のように体のポジションをうまく動かして前傾姿勢をとる時間を少なくするよう工夫しましょう。
介護するとき、腰痛の危険性を減らすコツ
冒頭でも述べたように、腰痛は介護や医療に従事する人にとって職業病といえるくらい関係の深い症状です。スライディングシートをはじめ、介護を楽にする補助用具もあるにはありますが、起き上がらせたり抱きかかえたりするのは人がやらなければなりません。
ここでは、ベッドに寝ている要介護者を起き上がらせる・寝返りを打たせるときの方法についてみてみましょう。