柔軟な軌道修正が「失敗しにくい行動パターン」をつくる
物事を決断し、次はゴールに向けて進んでいく。ただし、きちんと前を向いて進みつつも、刻々と変わっていく周りの状況の変化に敏感でいる必要がある。また、「間違っていた」とわかれば、それを認め、すぐに軌道修正する勇気を持たなくてはいけない。
進めていたものを修正するということは、今までの時間を無駄にするように思えるが、客観的に分析・判断できる柔軟性と振り幅を持つことは、結果に大きく関係してくるだろう。なぜなら、タイミングを逃してしまうと、修正が難しくなり、最悪の状況に至ってしまうこともあるからだ。
もちろん、時にはベストだと思い、最後まで突き進んだものの、結果的に失敗だったということもある。だからこそ、常にPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)のサイクルを実践し、失敗を失敗のままにせず、次への教訓とすることを怠ってはならない。
若田さんが見てきた優秀な宇宙飛行士も、失敗しないのではなく、改善のための軌道修正を常に怠らないという。常に前に進み、新たな挑戦を続けていくには失敗がつきものもの。しかし、柔軟な軌道修正を行なうことで、成功する確率を高め、失敗しにくい行動パターンを作ることはできるのだ。
「悔いのない決断」は自分が決める
私たちが「決断」する時に、一番大切なことは、たとえ決めることに不安があっても、後に振り返った時「あれが自分のベストな判断だった」と思えるよう、最後は自分自身で決めることだ。
決断をするためには、他者から助言や情報をもらうこともあるだろう。だたそのとき、人の意見に流され過ぎたり、「~すべき」という世の中の常識をもとに決めてしまうと、失敗したとき、責任の所在を自分以外に置いてしまうことになる。一方、何かに流されたのではなく自らが下した決断であれば、失敗すると悔しさは残るが、人のせいにして後悔することもなくなる。
若田さん自身も宇宙飛行士候補者選抜試験の際、「職場に迷惑をかけてまで、限りなく受かる可能性の低い試験を受けるべきではない」という常識的な判断をとることもできた。しかし、「今ここで受験しなければ、きっと後悔するだろう、後悔を引きずるよりは、可能性は低くとも受験すべきだ」という最終的な判断を“自分で”下した。
結果的に試験に受かったわけだが、きっと落ちていたとしても若田さんが後悔することはなかっただろう。5歳のとき、テレビでアポロ11号の月面着陸の様子を見て宇宙飛行に対する強い憧れを抱き、その時々で様々な決断を行ないながら、「今」につながっている。その経験があるからこそ、若田さんは「決める」ということに対し真摯に向き合うことを大切にしているのだ。
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「決める」という1つのキーワードは決して珍しいものではない。しかし、以上のエピソードから、私たちが改めて意識すべき仕事への取り組みを知ることができたのではないだろうか。
他にも「想像する」「学ぶ」「進む」「立ち向かう」「つながる」「率いる」という6つのキーワードに関する仕事術や、地上の訓練や宇宙でのトラブル対応、ロボットアームの故障に気づいたちょっとした普段からの心がけなど、現役宇宙飛行士ならではのピソードも掲載されている。
「自分は決してエリートではなかった」という著者が、知力、精神力、体力のすべてが問われる宇宙飛行士の仕事を通して磨いた仕事術は、きっと私たちにとって役立ち、勇気を与えてくれるはず。ぜひ実際に手に取り、若田さんから見た宇宙で働くということの一端を感じてほしい。