Google、インテルをはじめとした先端企業や、ジョコビッチなどのトップアスリートが取り入れている「マインドフルネス」。「“今、ここ”に意識を集中することで、不安や恐れを軽減し、動じない心を育む」といった効果が明らかになり、医学や教育の分野、そして一般の人のあいだにまで関心が高まっている。
予防医学の研究者であり、新刊書籍『「今、ここ」に意識を集中する練習 心を強く、やわらかくする「マインドフルネス」入門』(ジャン・チョーズン・ベイズ著/日本実業出版社刊)の監修をしている石川善樹博士に、マインドフルネスについて話を聞いてみた。
(聞き手:日本実業出版社)
「今この瞬間」に意識を集中させるマインドフルネス
─石川さんは予防医学の研究者としてマインドフルネスに関わられていますが、マインドフルネスを知ったきっかけを教えてください。
「マインドフルネス」という言葉、概念を知ったのはハーバード大学に留学していたときです。病院における、がん患者に対してのマインドフルネスの実践に立ち会ったんです。それは、患者さん自身が、がんの痛みに対する向き合い方を変える、というトレーニングでした。
もちろん痛み自体を取り除くことはできないけれど、自分の注意を、痛みに集中させないようにコントロールするんです。意識が痛みに集中すると、やはり痛いんですよ。でも、注意の向け方を変えることによって緩和することができる。
このように、注意の矛先をコントロールして、その瞬間に意識を集中させることが、マインドフルネスなんですね。
自分自身の実践、という意味ではもっとさかのぼることができるかもしれません。私は中学時代に仏教系の学校に通っていて、そこで毎週金曜日の朝に坐禅をしていましたから。もっとも、坐禅や瞑想はマインドフルネスの要素とはいえ、そのものではありません。
マインドフルネス=坐禅ではない
─たしかにマインドフルネスというと、瞑想や宗教との関連を思い浮かべる人が多いと思います。
マインドフルネスは、マサチューセッツ大学医学大学院のジョン・カバット・ジン教授が開発した、禅から思想や宗教色を分離した「マインドフルネス低減法」のメソッドがベースになっています。瞑想や宗教を連想するのは、仏教の要素がテクニックとして入っているからでしょうね。
しかし、マインドフルネスは科学的なメソッド、「ベースメソッド」といいますが、これが確立されている点で、宗教とは全く異なったものです。
またマインドフルネスは、科学的なメンタルトレーニング法でもあります。しかし、従来のメンタルトレーニング、たとえばポジティブ・シンキングのように考え方そのものを変えるものではないんです。個人の考え方を変えるのは無理だ、ということがだんだんわかってきて。そうではなく、注意の向け方、矛先を変えよう、ということなんですね。それをすることによって自然と思考も変わってくる。
情報がいまほど多くなかった時代には、心のトレーニングはとくに必要なかったことかもしれません。いまは情報があふれかえっていて刺激が多く、注意が乱れやすい時代です。だから、どこに注意を向けるかということにすらトレーニングが必要になってきたともいえます。
─テニス界最強のジョコビッチ選手もマインドフルネスを取り入れているそうですが、メンタル面はプレーに影響を与えていると思いますか?
「影響を与えている」どころではないでしょう。トッププレーヤーになればなるほどメンタルの差が勝負を分けますから。とくにテニスのように試合時間が長いと、プレー中にいろんな感情が湧きあがります。喜びも怒りも、勝負にとってはどれも危険な感情なんですね。喜びであってもサッと忘れなきゃいけない。そのためにもマインドフルネスはとても有効だと思います。