企業型の場合、一般には総務部・財務部など従業員の年金を管轄する部署が金融機関と提携して商品ラインナップを用意し、従業員は与えられたラインナップから自分で商品を選択していくことになります。この場合、企業が提携した金融機関がそのまま運営管理機関となります。
すると、運営管理機関を選択する余地が事実上消滅し、商品選択の自由が限られます。加えて、用意された商品群が必ずしも従業員の年金運用に有利なものとは限りません。その理由は大きく次の2つに分けられます。
- 財務担当者は「通常業務の都合上、会社のメインバンク・主幹事証券との取引関係をよくしたい」と考えるので、系列の運営管理機関が地雷商品しか販売してなかったとしても契約することがある(=悪い言い方をすれば、従業員の年金を「売る」)。
- 担当部署もしくは担当者が制度や商品に対する知識が乏しい場合、運営管理機関に商品構成を「丸投げ」することがある。また、企業型の制度においては、従業員に対して「投資・運用に関する教育」の機会を提供するよう努めなければならないが、こうした投資教育の場が金融機関に都合のいいセールスプロモーションの場になりかねない
こうした場合どうすればいいのか。経済評論家の山崎元氏は自著のなかでこう述べています。
それでは、企業型しか選べない会社員で、勤め先にダメな確定拠出年金が導入されている場合にはどうしたらいいのか。
良い運用商品を選べないとしても、確定拠出年金を利用することによる所得控除のメリットは絶大なので、利用出来る枠は最大限に利用し、より「マシ」な商品(運用商品の評価方法は、本書で詳しくご説明する)を選ぶことになる。
加えて、運用商品のラインナップは後から変えることが出来るので、会社に要望して改善して貰おう。
また、投資教育の機会に、金融機関の系列会社から派遣される講師(実態はセールスマンだ。俗に言う「タダほど高いものはない」というのは、こういう状況を指す)ではなく、客観的な立場で運用を語ることが出来る外部講師を頼むように働きかけよう。
そもそも、確定拠出年金の担当者自身が運用をよく分かっていないケースがよくあるので、ビジネス上のしがらみがない専門家の話を聞くことが有益だ。
何はともあれ、運営管理機関が提供する運用商品の中から、どれを選ぶかの選択権は、加入者が持っている。金融機関の手数料稼ぎ用の商品ばかりが並んだラインナップの中からでも、相対的にベストのものを選びたい。
※『確定拠出年金の教科書』(日本実業出版社刊) p52-53より
また、多くの商品ラインナップを提示されることがありますが、選択肢があまりに多いと選ぶのが面倒になってしまい、投げやり気味な商品選択・運用になってしまうことがあります。加えて、こういうときは「木を隠すなら森の中」と言わんばかりに地雷商品が紛れこむことも多いので、その点でも注意が必要となります。
ここまで、確定拠出年金の概要と避けるべき商品について書いてきました。山崎氏は、確定拠出年金の商品選びの指針として、次のように述べています。
理想的な商品ラインナップの条件をまとめると、次の三原則になる。選ぶに値する運用商品をラインナップに追加して貰うことが出来るかどうかで、老後の受給額に小さくない影響があるだろう。
確定拠出年金の良い商品ラインナップ三原則
- 選択肢の数が多すぎない
- 内容が分かり易いシンプルな商品である
- 手数料コストが低い
※『確定拠出年金の教科書』(日本実業出版社刊) p72より
もちろん、確定拠出年金は加入して終わりではありません。むしろ加入してからが本番、年金を受け取るまで正しく合理的な運用を心掛ける必要があります。運用は自己責任となるので、ハードルが高いと感じる人も多いことでしょう。
しかし、確定拠出年金の制度はそれを補って余りあるメリットを有しています。公的年金が不安視される今、自分の老後を守るためにも、選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。