手紙のルールは崩すためにある?
ここまで、手紙の基本の型や、前文の簡単な作り方を確認しました。最初は、この型を大切にして手紙を書くことになれることが大切です。
一方で『仕事で使える 手紙力の基本』(中川越:著)によると、自分の気持ちを相手に伝える際に、多少原則からはずれる方が良い場合もあるとか。
たとえば、手紙といえば時候のあいさつが絶対必要だと思われがちですが、場合によってはあいさつを飛ばして、そのまま本題に入るほうが適切な場合もあります。
何か苦情を訴えるような手紙の場合には、趣のある時候のあいさつはふさわしくないので、そのままズバリ本題に入った方が自然です。さらに病気や怪我、災害のお見舞いでは、時候のあいさつに加えて頭語と結語も省くことがあります。これは、あいさつも忘れるほど心配していることの表明になるからです。
また、手紙の頭語と結語の組み合わせをあえて崩すということを、上級者は行ないます。
筆まめで有名な明治の文豪、夏目漱石の手紙の中には、「拝啓」で改まって書き出したものの、本来は対となる「敬具」ではなく、より略式的な頭語と対になる「草々不一」で結んでいるものがあるそうです。それは、最初は改まって書き出したものの、気の置けない相手に内容をつづるうちに、ざっくばらんな文面になったため、「内容がごちゃごちゃになってしまって、ごめんね」という「敬具」で結ぶには軽い内容になってしまったことに対する謝罪を表しているとか。
もちろん、このように基本を崩してオリジナルな表現を使うのは、手紙を書きなれた「手紙力」の高い人ならではのワザですが、気持ちを込めて手紙を書く習慣を身に着けられれば素敵ですね。今回紹介した基本の組み合わせを覚えて、まずは1通、手紙を書いてみませんか?