“すごい”ものを見てしまったという驚きによって、風景や石を見てきたことで培われた知識が脳の奥から呼び戻されているに違いありません。そして、専門知識や経験をリンクさせて目の前の自然現象を理解しようとしていることでしょう。

「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉を残したとされる寺田寅彦は、地球科学者でもありました。それが「油断禁物」といった単純な意味ではないことは、随筆を読んでみるとわかるでしょう。震災を実際に自分の目で見たものと専門知識をリンクさせているだけに深い言葉です。

在りし日の熊本城。今回の震災で甚大な被害を受けた(photo by zaimasukoike/fotolia)
在りし日の熊本城。今回の震災で甚大な被害を受けた(photo by zaimasukoike/fotolia)

そして、長いタイムスケールの中で起こる自然現象と人間性の両面から災害を考察して、繰り返される天災を伝承していくことの難しさを実感しつつ、「人間の科学は人間に未来の知識を授ける」と信じていたようです。

風景や石から地球の営みを読み取っていく地球科学をかじってみると、実はもっと恐ろしいことが起こりうることも想像できてしまいます。こんな時こそ、冷静に自然現象を観察してくれる地球科学者が現地で無事でいてくれたことを嬉しく思います。未来の知識を授けてくれるに違いありません。

地球科学を学ぶのは何のため?

初めて地層について学習する小学6年生に授業をすることがあります。河原の石に触ってもらいながらプロローグ的な話をします。その授業の終わりに「石を調べて何の役に立つの?」と質問されたことがありました。困りました。子供たちには明るい未来の話をしたいと思い、とっさに思いついたのが小惑星探査機「はやぶさ」のことです。

ちょうど「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰ったことが映画になり、小学生にもよく知られているようだったからです。「はやぶさは、何のために遠くの小惑星まで行って帰ってきたのか知っていますか」と聞き返したところ、予想外の反応だったのかみんなキョトンとしていました。私は続けました。

「石を採りに行ってきたのです。小惑星の石を調べると、地球や宇宙がどのようにしてできたのかわかるからです」

不思議なもので「じゃあ、地球や宇宙のことを調べて何の役に立つの?」とまでは聞かれませんでした。そこで、話を火星に飛ばしました。「将来、火星に行けるようになったら、石や地層のことが分かる人が火星探査してくれないと困ります。なぜなら、水や資源がある場所を探さないといけないからです。」と付け加えました。

そんな話をして、「火星に行ってみたい人!」と聞いてみたら、あれ? 誰も手を上げてくれないじゃありませんか。う~ん……

火星で生活しようとするなら、火星のことを知ろうとするものでしょう。地球で生活するなら、地球のことを知ろうとするものでしょう。子供たちは、火星はともかく地球のことがわからないことだらけだなんて思っていないのかもしれません。とくに、地下のことは私たちの生活や社会と関わりが深いのですが、案外意識されていないのかもしれません。