エル・キャピタンは、ヨセミテ国立公園にある高さ約1000mもの一枚岩と言われます。「一枚岩」というには分厚すぎるのでは? とツッコミを入れたくなることはさておき、こうした雄大な風景に感動する方は少なくないでしょう。
もちろん私も、このような大自然を感じさせる風景写真は大好きですし、雄大で美しい景観を実際に行って見てみたいと思ってしまいます。ただ、私の感激ポイントは「エル・キャピタンの絶壁は、下から上まで同じ花崗岩だ!」というところにあります。そう言うと、「え、そこ?」とキョトンとしてしまう方も多いかもしれません。
しかし、誰でも、自分の関心事については、感動ポイントがずれているものではないでしょうか。
例えば、自動車好きの方なら「エンジン音がたまらない」とか、料理好きの方なら「食材の組み合わせが絶妙」などと言ってしまうことがあるでしょう。他人と感動ポイントがずれていることは、その分野の面白みをじっくり味わっている証拠です。どんなことでも、知れば知るほど、見かけといった表面的なことから味わい深い内面的なことへと感動ポイントがシフトするものです。
エル・キャピタンの岩壁は、地下深部にあったマグマだまりでした。少なくとも厚さ1km以上のマグマの塊が冷えて固まり、花崗岩という結晶の塊となり、隆起・侵食を経てヨセミテ渓谷に立ちはだかっています。そんな途方もない地球の営みを圧倒的な迫力で感じさせてくれる。地球科学の知識が、そんな風に感動ポイントをシフトさせ、風景をより味わい深いものにしてくれるのです。
石がおもしろくなる
私は展示に関わる仕事が多く、こうした感動のシフトを展示でも体験してもらいたいと思っています。あわよくば、エル・キャピタンの岩石について一緒に語れる仲間を増やそうと狙っているわけです。
しかし、特別展などでは集客性も問われますので、いきおい見かけの魅力に頼りがちです。実際、来館者の行動を観察してみますと、多くの人が目を奪われるのは大きなものと美しいものです。驚きや高揚感を与えてくれるからでしょう。地球科学に関係するものでは、大きな恐竜の全身復元骨格や美しい鉱物結晶となるわけです。
美しいものや大きいものといった視覚に訴える展示は、知的好奇心をくすぐり、知識や経験を呼びもどしてもらう役割を果たします。さらに、タッチコーナーを設置したりクイズ形式の解説をしてみたりして、脳の片隅に何らかの情報を残してもらうような工夫をします。
現在、名古屋市科学館で開催中の特別展「恐竜・化石研究所」では、“目玉”として、長さ40cmほどもある肉食動物としては最大の糞化石を展示しています。これは、実は世界で唯一ティラノサウルスのものと言える糞化石なのです。ではなぜ、ティラノサウルスの糞だと言えるのでしょうか?