サトル「あのね、ソクラテスさん。ぼくは彼女がほしいだけなんです。それなのに、期待して行った合コンであんな扱いをされたら、誰だって失望するし、腹も立ちますよ」
ソクラテス「キミはわがままな人だね。自分のことを話したいと言ったり、話したくないと言ったり」
サトル「あなたが空気を読まないのが悪いんでしょ!」
ソクラテス「空気ねえ。論理なら読めるんだけど」
この人は口が減らない……。
ソクラテス「しかたないなぁ。わかったよ、合コンのことを掘り返すのはもうやめにしよう。キミに逃げ出されたら元も子もないからね」
サトル「ええ、そうしてください」
ソクラテス「……ただし、その代わりに、これからキミがどういう恋をしていくべきなのかを一緒に考えさせてもらいたいんだけど、それでもいいかい?」
サトル「やれやれ。どうしても恋愛についての話がしたくなっちゃったんですね。ソクラテスさんがしつこい人だってことは、だんだんわかってきましたけど」
ソクラテス「あ。やっとぼくのことを理解してくれた?」
サトル「開き直られるとムカつくんですけど……。まあ、合コンのことに触れないのならいいですよ。どうせほっといてって言ってもほっといてくれないんだろうし」
ソクラテス「親愛なる友よ、どうもありがとう。ゼウスに誓って、心から感謝するよ!」
ソクラテスは天を仰ぎ、両手をかかげて感謝の意を示した。
ソクラテス「さて、何を聞こうかな。そうだ、まず、キミが恋をしたいと思っているのはどうしてなのか、そこのところから話をはじめてもらおうか」
サトル「わかりました。どうして恋愛したいのかをお話しすればいいんですね、ソクラテスさん?」
ソクラテス「そのとおりだ!」
……ちょっと嫌みを込めて繰り返したつもりだったのに、ソクラテスはとてもうれしそうにうなずいた。こうなりゃヤケだ。全部話してやれ。全部話して、どんなアドバイスをしてくれるのか聞いてやろうじゃないか。
サトル「そうですねえ。たぶん、ぼくくらいの年頃のひとり身の男なら、恋をしたい理由はだいたいみんな同じなんじゃないでしょうか。
要するに、みんな毎晩家に帰ってもすることがないし、さみしくてたまらないんですよ。退屈でさみしいから、彼女持ちのリア充、つまりリアルな生活が充実している人がうらやましい。だから彼女がほしくなるんです」
ソクラテス「なるほど。この国には1人で暮らす人が大勢いるみたいだけど、そのせいで孤独を感じる人も多いというわけだね?」
サトル「はい」
ソクラテス「それで、恋人ができたらそのあとはどうするの?」
サトル「もちろんリア充になりますよ。会えない日はメールしたり、電話したり。会えば会ったで、あんなことやこんなこと……」
ぼくの頭の中で妄想はふくらむ一方だった。
ソクラテス「ほう」
サトル「ぼくの大学の同期に北山譲二ってヤツがいるんですよ。譲二はすごくモテて、いつ見てもかわいい彼女を連れてるんです。しかも腹が立つくらいラブラブで。あー、うらやましいなあ! ぼくはたぶん、心の底では根暗な自分が大嫌いで、情熱的に恋愛を楽しんでる譲二みたいな男になりたいと思ってるんですよ」
ソクラテスはじっとぼくの話を聴いている。
サトル「……ああ、あいつはあんなにモテるのに、どうしてぼくはこんなに彼女ができないんだろう。ぼくだって、求めたり求められたりして幸せを感じたいのに……」
ソクラテスは自分の世界に入りきっているぼくの肩をポンとたたいた。
ソクラテス「ねえねえ、熱弁中に申し訳ないんだけど、ちょっといいかな?」
サトル「なんですか?」
ソクラテス「いまの話からすると、サトルくんは、恋人と求め合うことで毎日を充実させようとしているんだよね?」
サトル「そうですけど。それが何か?」