多くの競合企業がひしめき合う市場には、同じような商品やサービスがあふれています。大半の消費者は、自分の好みにマッチし、なおかつ納得のいく価格の商品でなければ簡単には買ってくれません。
こうしたなか、競合他社と同じことをやっていては価格競争に巻き込まれてしまうのは当然で、他社が簡単には模倣できない「差別化」をどのように図るかが、企業の命運を左右します。今回は身近な企業が苦心して、たどり着いた「差別化」の実例を、『すごい差別化戦略』(大﨑孝徳:著)より、見ていきましょう。

Case1. ハーゲンダッツ人気の秘密は「至福の瞬間」にある

過当競争にさらされるアイスクリーム市場において、別格の知名度と売れ行きを誇るのが「ハーゲンダッツ」です。

一般のアイスクリームと比べて高価格であるにもかかわらず、消費者に支持され続けています。初めて食べた時のハーゲンダッツのおいしさが忘れられず、それからずっとファンで買い続けている方が多いのではないでしょうか。

ハーゲンダッツのおいしさの秘密は?
なぜ、それを競合他社はマネできないのでしょうか?


ポイントはハーゲンダッツの、原材料への強いこだわりと、その万全なコンディション管理です。

・良質なミルク
乳牛の健康管理はもちろんのこと、主食となる牧草の成分分析を行なうとともに、さらには乳牛にとって理想的な牧草が育つために土壌のpH値までも厳しく管理された土地で育った乳牛のミルクを使用するという徹底ぶりです。

・世界中から厳選した素材
風味を決める副材料にも徹底的にこだわっています。たとえば、イチゴは3年もの歳月をかけて探し出した、味わい、香り、色合いとも最もハーゲンダッツアイスクリームと相性のよい品種が選定されています。

・「キッチン・フレンドリー」な素材
ハーゲンダッツのアイスクリームはミルク、砂糖、卵が主原料となっており、こうした家庭のキッチンにあるような食材を使うことをハーゲンダッツでは「キッチン・フレンドリー」と呼んでいます。
合成添加物を使用せず、キッチン・フレンドリーな原材料を選んでアイスクリームをつくる理由は、素材のおいしさを消費者にそのまま伝えるためです。

(『すごい差別化戦略』42~43ページより)

こだわりの原料といっても他社に模倣される可能性が高いですが、ここまで徹底すれば他社が簡単にはマネできない有効な差別化要因になり得るという実例です。

また、ハーゲンダッツでは「誰もがおいしいと感じることのできるアイスクリームは、本物の素材からしか生まれない」との認識が全社的レベルで浸透しています。「ハーゲンダッツ・モーメント(至福の瞬間)」に代表される企業理念にあるように、コストや生産性を考えれば合理的とは言えない部分があっても品質管理を徹底し、食べたときにハーゲンダッツでしか味わえない「至福の瞬間」を消費者に届けることに強くこだわっており、それが競合他社の商品を圧倒する「絶対的な違い」となっています。

Case2. 買うのが恥ずかしい鼻毛カッター

みなさん、鼻毛カッターを使ったことはありますか?

髪の毛は薄くなってくると悲しい思いはしても「毛」の主役として存在感があるのに対して、鼻毛は少しでも主張しようものなら必死に隠したくなってしまうちょっと悲しい存在ではないでしょうか。そんな負のイメージを持つものに関連する商品を特にリアルな店舗で購入することは、消費者にとって大なり小なり抵抗を感じさせるものです。

しかし鼻毛カッターのように、「買うのがちょっと恥ずかしい」「もっているのを知られると、カッコ悪いな」くらいの弱いレベルの商品の場合、潜在的需要は高く、競合する企業は比較的少ないと想定されます。

では、イメージがあまりよくない鼻毛カッターの売り上げを伸ばすには、どうすればいいでしょうか?