日本法人の第一号社員である片岡愛子さんは、大学と提携し、学生たちにワープロや表計算などの基本的なアプリケーションを無償提供する活動を独自に始めました。この活動が学生たちへのグーグルブランドの浸透に役立ち、同時に社会貢献にもなると考えた片岡さんは、活動の拡大のため本格的に事業化することを目指します。
その想いは口コミで広がって賛同する仲間も増えました。そこで予算獲得のため、仲間たちとともにアメリカ本社の会長であるエリック・シュミットにビデオ会議で直談判。プレゼンは見事に成功し予算がつきました。
アイデアと情熱があれば、現場の一社員が本社のトップに直接働きかけ事業化できる。このようなカルチャーも、イノベーティブであり続ける理由かもしれません。
(同書110ページより)
「異能たち」の緊密なコミュニケーション
またグーグルには、部門やポジションに縛られず、個人同志がそれぞれの専門性を活かしてチームを組んで仕事をする、という雰囲気がありました。事業アイデアを持った人がリーダーとなり、自分を助けてくれそうな社員を探してチームアップする。全社員のプロファイル(出身大学や前職など)がイントラネットに公開されているからこそできることです。
社員は、必ずしもコンピュータサイエンスを専攻した人たちばかりでなく、元宇宙飛行士もいれば医者もいるという、実に多様な人材が集まっていました。そうした異なった専門性を持つ社員たちの交流を促すためにグーグルが重視していたのが、「食事」を通じたコミュニケーションでした。
アメリカ本社では、3食無料の食堂で日常的に「異業種交流会」が行われ、異なったバックグラウンドを持つ社員たちが、食事をしながら自然に盛り上がっていたそうです。
その様子はまるで「スターウォーズ」1作目の、宇宙人が集まる酒場のよう。異能たちが集まり、自由に対話することこそがクリエイティブな発想の源泉なのです。辻野氏もこう述べています。
エリック・シュミットは、イノベーションというのは、朝目覚めた時にひらめくようなものではなく、日常のコミュニケーションの中からこそ生まれるものだ、といっていました。
(112ページより)
イノベーションは1日にしてならず
最先端で華やかなイメージのあるグーグルですが、「実はものすごく泥臭いところがあります」と辻野氏。
例えば「グーグルブックス」は、本の情報をオンラインで検索できるようにするために、紙の本を1点1点スキャナーで取り込んだものです。また「ユーチューブ」や「ストリートビュー」は当初、著作権やプライバシーを侵害するものとして批判を浴びましたが、関係業界や社会の理解を得るために忍耐強く説明し、現在のような市民権を徐々に得ていきました。
どんなに画期的なサービスや製品でも、「どうだ、すごいだろう」と高飛車に威張っているだけではイノベーションは成り立ちません。
(109ページより)
辻野氏がこう言うように、グーグルの革新的なサービスは、こうした現場の地道な努力があったからこそ花開いたものです。単に新しいアイデアや技術を考え出すことがイノベーションなのではありません。それが理解され、受け入れられ、その人たちの生活を変えることができて初めてイノベーションと言える。そのための努力が必ず必要なのです。
自主性を重んじる組織で、それぞれの社員が、自分のアイデアを多様な人材と対話を繰り返しながら具体化し、イノベーションを起こす。そのような意味で、グーグルの社員は「全員がリーダー」だと言えます。
ここで紹介したグーグルでのエピソードは同書のほんの一部です。いまも挑戦を続ける辻野氏はこの本で、現在進行形のリーダー論を展開しています。「今、リーダーになる勇気を持て」というメッセージは、すべてのビジネスパーソンの背中を押してくれるでしょう。